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第二百三十七話:いかる!

なんだかんだな晶龍君。

「歩美はあんざんがた?なの!」


 嬉しそうに言うミラちゃん。いやまあ安産型かって言われたらそうなんだろうけど。おしりもお胸も大きかったし。まあお腹も以前は大きかったよ。最近はそうでもなくなって来たけど。


「ミラちゃん、それは歩美さんの前では言ってはいけないよ」

「どうしてなの? ちゃんと言ってあげたら泣いて喜んでたの!」


 それは喜んでたんじゃないと思うんだ。どっちかって言うと嘆き?


「大丈夫なの! どっちが先にご主人様の子どもを産むか競争なの!」


 えーと、またしーんとなっちゃったんだけど。いや、ぼくは無実だろ、これ!? アリスが爆発するのが目に見え……あれ?


 アリスがガックリしてる。一体なんで……


「主様の、子ども、私じゃ、産めない……」


 なんかブツブツ言ってるな。うん、触らぬ神に祟りなしだ。


「まさかオマエ! ミラをはらませたのか?!」

「なんだって!? いくらご主人様でもそれはあんまりだぜ……」


 やっとらんわ! こっちから頭撫でる以上の事はしとらんつーの。というかいい加減ミラちゃんの演技に付き合うのも疲れてきたよ。


「はいはい、そこまで。営業再開してくれ。あと、ミラは給料減らすぞ」

「酷いの! ちょっと愛が溢れただけなの!」

「じゃあミラの給料は愛でいいかな」

「だんこきょひするの。労働にはせーとーなたいか?が必要なの!」


 どこでそんな言葉覚えてくるんだか。ん、ああ、目を逸らしたら自分だって認めてるようなものだぞ、アスカ。


「それから晶龍にジャック、ミラが言ってたことは半分以上デタラメだからな」

「ちっ、わかってるよ」

「待てよ? 半分以上って事は半分以下には真実が含まれてるってことだ! やっぱりロリコンなんじゃねえの?」


 この世界にナボコフさんはいなかったと思うんだけど……あ、そういう幼児性愛みたいな言葉があって自動翻訳されてんのかな。


 昼を過ぎて夕方前のこの時間は注文もまばらになる。配達先はと言えば冒険者ギルドが主だ。冒険から帰ってきた冒険者が食べたりする訳だ。予めの時間に届けてもらうという予約も出来る。


「晶龍も、冒険者ギルドがどんなところなのか道順覚えながら行ってくるといい」

「まかせとけ!」

「よろしくなの。デートなの!」

「デッ!? い、いや、おまえ、そんな、デートとか」


 明らかにオロオロしてる晶龍。まあうぶなのはどうしようもないのかもしれない。そういう免疫のないクソガキって感じだったからな。


 しばらくして、転移先に反応が出た。アスカが教えてくれたし、出たらベルが鳴る様にしているから。出てきたのはミラちゃんだけだった。あれ?


「大変なの! 晶龍君が冒険者ギルドで暴れてるの!」


 なにぃ!? なんだよ、いきなり問題起こしやがったな。ぼくもついて行くべきだったか? とりあえず冒険者ギルドに向かうぞ!


ご主人様(マスター)、転移?」

「冒険者ギルドまで頼む」

「断固拒否する。労働には対価が必要」


 やはり教えこんだのはアスカだったらしい。その事を指摘すると渋々という感じでぼくらを転移させてくれた。メンバーは責任者のぼく、トーマスさん、ミラちゃん、アリス、アスカだ。


 冒険者ギルドの扉を開けて中に入るとそこには死屍累々といった冒険者たちの骸があった。いや、本当には死んでないよ? 死んでは無いけど動けなくはなってる。


 騒ぎの主の晶龍はハゲマッチョと取っ組み合いの喧嘩をしていた。


「このクソガキ! ちょこまかと動きやがって!」

「よわいくせにほえてんじゃねえよ!」


 かわしながら蹴りを叩き込んだり、拳をぶつけたりしている。今のところ晶龍へのクリーンヒットはない。


「この騒ぎを説明してくださいませんか?」


 ぼくが言うとひょろっとした男が話しかけてきた。自分は全部見ていたと。では話して欲しいと言うと何も言わずに両手を出した。


 ちっまあ仕方ない。手のひらに金貨を載せてやると潤滑油としては優秀だった様だ。


「あのお嬢ちゃんとガキがはいってきてなあ」


 ミラちゃんがカレーを注文客に置いたら「それはこっちのもんだろうが!」ってイチャモンつけてきた奴がいて、証拠の半券を出してもらったんだけど、明らかに言いがかりってのがバレたんだそうな。


 それだけならあまり褒められたものじゃないけど分からんでもない。


 ところがそこでそいつがカレーを机ごとひっくり返してしまったそうだ。それにミラちゃんが弁償しろって食いかかったらしい。で、その男はミラちゃんを跳ね除けた。まあ冒険者だもんね。


 それに晶龍が頭に来て暴れ始めたんだと。なるほど、ミラちゃんを守る為か。それなら晶龍は無罪、と言いたいところだけど明らかにやりすぎだよなあ。


「なんだあ? まだいやがったのか?」


 晶龍が真っ赤な目を光らせてギロリとこっちを睨む。もしかして正気を失ってるのか?

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