第二百三十三話:今日からお仕事!
晶龍君に出来る仕事はあるのか!?
翌日。朝に晶龍を迎えに行ったらまだのんびり寝てた。いやまあデリバリーカレーは昼前からだからゆっくりでもいいんだけど。でもぼくが起きてるのにこいつが起きてないのは腹が立つな。
「おはようございます、護様」
「おはようございます、蜃さん。晶龍君はまだ寝てるんですね」
「ええ、宮殿にいた頃も空腹にならないと起きてきませんでしたから」
「蜃さん、甘やかさずに起こさないとダメですよ」
そういうぼくの背中をアインのジト目が狙撃している。お前が言うなって? ああ、引きこもりに朝なんて時間は存在しないんだよ! 強いて言うならニチアサかな。
主に土曜の夜から起きて観てから寝るとかしてたけど。戦隊モノ観る時には瞼が重くなったり、頑張って起きてテレビ点けてみたらゴルフやってたりとか。纏欬狙振弾とかなら頑張って観るんだけど。
「おはようございます、おぼっちゃま。朝でございますぞ」
「んんー、なんだよー、ねむいんだからもうちょっとねかせろよー」
枕に頭を押し付けてくぐもった声で返事する。まあ朝は眠いのはわかる。でももう陽はとっくに昇ってる時間だ。
「おぼっちゃま、今日から働くのでございましょう? 色々と準備もありますので」
「うるさいなあ、オレサマがはたらかなくてもいいだろ。かわりにしんがはたらいてこい」
「おぼっちゃま、それは無理でございます」
「なんだと? オレサマのめいれいだぞ!」
頭に来たみたいで血圧が上がったのかそのまま身体を起こした。そこに居るぼく、アリス、アインの姿を認めた様だ。
「おはようございます。さあ、朝の支度を致しましょう」
「なっ、なっ、なっ! なんでオレサマのへやにオマエらがいるんだよ!」
「晶龍君が起きてこないからだよ。もう少しグズる様ならアリスが布団から引っペがそうと思ってたところだよ」
にこっと笑うアリスに「ひっ!?」と小さな悲鳴を上げて答えながら、アインのするがままに着替えさせられていた。
「本日は私が着替えさせましたが、明日以降はご自分でお願いします」
着替えた服はTシャツと長ズボン。半ズボンでも良かったんだけど、街中動いてたら傷出来ちゃうかもだし。いや、まあ龍なんだから少々の事では傷なんかつかないだろうけど。
「朝食の準備は出来ております。こちらへどうぞ」
ダイニングにストレージから料理を取り出して並べる。朝食のメニューはトーストとバター、ハムエッグだ。簡単だけどまあこれくらいでいいよね。
「なあ、にくねえの?」
「朝からお肉というのはあまり聞きませんね」
「なんだよ、よういしとけよ、ポンコツメイド!」
その言葉を発した瞬間、晶龍の頭にアインの手が伸びた。拡げられた手のひらはそのまま顔面を捉え、頭皮に食い込まんばかりに指を立てた。
「いていていていていて!」
「ポンコツ、とは聞き捨てなりませんね。例えご主人様であろうと私をポンコツ呼ばわりするなら粛清しますよ?」
いや、怖いな、おい。まあぼくがアインをポンコツ呼ばわりする事は今となってはないだろう。出来たての頃の何の学習もしてない頃なら別だけど。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「良いでしょう」
すっと指から力を抜く。晶龍の頭に痕がくっきり残ってるぞ。仕事する時までに治るかな。
朝食を食べて部屋を片付けさせる。いや、整えさせるだね。荷物はあまり出てないから片付けるもの無いし。そんな感じでバタバタやってたら時間もいい感じに。デリバリーカレーのお店に行くよ。
デリバリーカレーはいつもトーマスが店を開けている。まあ晶龍が着いた時には孤児院の子ども達も既に揃っていたが。
「みんな、おはよう」
「オーナー、おはようございます!」
「今日からみんなと一緒に働く子を紹介するよ。晶龍君だ。みんな、教えてあげてくれ」
「……ふん」
「晶龍なの!」
「げっ、またおまえかよ」
嫌そうに言う晶龍にミラちゃんがニコニコしながら接する。これはミラちゃんに任せる? いや、初日だからぼくらが居た方がいいよね。
「よし、じゃあ今日はぼくもアインも居るから、開店準備!」
「はい!」
みんながバタバタと開店準備に走る。晶龍は何をやっていいやら分からないのだろう。うん、今日は初日だから何をやるのか見て学べばいいよ。
時間になったら開店。いらっしゃいませ! 挨拶の練習を晶龍にさせる。挨拶は大事だよ。デリバリーカレーの仕事は配達、接客、調理、清掃の四つ。この内、配達は帝都に来たばかりの晶龍には無理だろう。
調理も経験がないと無理。孤児院の子たちはアインのスパルタ式育成プログラムで成長したのだ。いやまあそこまで難しい調理してないってのもあるんだけど。さすがはカレールー。
なんか最近は自分たちでスパイス使って試行錯誤もしてるそうな。なんという向上心。




