第二百三十二話:明日からお世話になります
単にすごすだけならニートですもんね。そういうのものにわたしはなりたい。
テーブルの上に置かれているカレー。アインはデリバリーに不満そうな顔をしていたが、掃除の方が急務という事で納得してもらった。
まあ、味のチェックも経営者としての責務だからね。いや、ぼくに味がわかるかって言われても困るんだけど。詳しいのはアインに任せよう。
そのアインがスプーンでカレーをひとすくい。優雅に口に運ぶ。ぼく? いや、もう食べてるよ。普通に美味しいんじゃないかな? 最近はスパイスを使って作ってるらしく試行錯誤の連続なんだそうな。
「これは……ふむ、なかなかにいい味ですが、スパイスが少し強すぎますね。はちみつの量を少し増やすべきかと」
どうやらはちみつが入っていたらしい。りんごと恋でもしてたのかな?
「分かったの! 伝えておくの!」
同じくカレーを食べながら答えるミラちゃん。そう、運んで来たのはミラちゃんなのだ。いや、あのワカープロのことが無ければ名前すら認識しなかった子だけど。年齢的には晶龍より少し下くらいだね。
「いや、そのまえになんなんだよ、おまえは! カレーとかいうやつをとどけにきたかとおもったらそのままテーブルでメシをくいはじめやがって!」
「ええ? だってこれはミラのまかない?なの。ちゃんとみんなにもオーナーのところで食べて来るって言ってきたの!」
「いみわかんねえよ! このいえのやぬしはオレサマだぞ? オマエはゆるしてねえよ!」
ギャーギャーと言い合いを始めた。なので言ってやる。
「その子は明日からお前が働く店の先輩だからな。仲良くしろよ」
「はあ? はたらく? このオレサマが? じょうだんはかおだけにしろよ!」
別に冗談でもなんでもないんだが。というか冗談みたいな顔なのか。ううむ。
「護様の仰ってる事は本当でございますよ、おぼっちゃま」
「はあ? しんまでそんなバカなことをいってんの? ちちうえがゆるさないぞ!」
「そのお父上たる青龍様のお達しでございます。無為に過ごすのではなく、仕事を通して成長させよと」
「そんな、ちちうえ……」
がくり、と手を着く晶龍。カレー? もう食べ終わってた。
「あなた晶龍っていうのね。私はミラなの! よろしくなの!」
「うるせえ、チビ!」
「何を言ってるの! ミラは立派なレディーなの!」
「おまえみたいなチビのレディーなんかいねえよ!」
「私よりも晶龍の方が小さいのよ!」
「そそそそんなことはねえ! オレサマのほうがおおきい!」
まあぼくから見たらどっちもどっちなんだけどどうにも収まりがつかないみたいで、身長を測ることになった。その結果……
「ほら、やっぱり私の方が高かったの!」
「ううっ、うそだ! こんなのインチキだ! みとめねえ、みとめねえぞ!」
晶龍は目を赤く光らせると身体が煙のようなものに包まれて、次に姿を現した時には小さくても青龍と同じ感じの姿になっていた。あ、小さいって言っても「青龍に比べて」って事。大きさ的には部屋の三分の一位は占拠してる。
「どうだ! オレサマのほうがおおきいだろう!」
「びっくりしたの! なんなの、なんなの? 変身したの! また女神様なの?」
そう言えばフォルトゥーナさんが降臨した時に居たもんな。だから耐性がついてるのかな?
「おい、ビビれよ! そんでなきわめけよ! おもしろくねえな!」
「おぼっちゃま、なんということを……そういう事をこの街でしてはいけません!」
「しんはだまってろ! このクソナマイキなチビにちからのさってやつをおしえてやる!」
はあ、こりゃダメだ。アリス、止めてくれ。
「やっぱり主様はロリコンなの? あの子を守るの?」
「いや、ロリコンじゃないから。単なる安全確保だから」
「でも主様が言うなら私は頑張る!」
アリスがジャンプして晶龍の頭に手をかけるとそのまま地面に落下して強引に押し付けた。
「いたいいたいいたいいたいいたい!」
半分泣きが入ってる晶龍。ダメって言われたことをやっちゃあダメなんだよ。あ、次にこの様な事があったらアリスに引きちぎって貰うから。
「ひきちぎる? そんなことできるわけねえだろ!」
「ええ? だってあの青龍さんだっけ? あの逆鱗よりかは柔らかそうだよ?」
逆鱗、という言葉に晶龍はビクッとなって動きを止めた。父親がアリスにボコられたのを思い出した様だ。
「元に戻ろうか?」
「………………わかりました」
素直に元に戻る晶龍。ミラちゃんは大丈夫かな?
「すっごくびっくりしたの! でもカッコよかったの!」
その言葉を聞いて晶龍はかなり面食らったらしく少し赤くなりながら「お、おう」などと言っていた。照れてる照れてる。
その日はミラちゃんが帰った後に明日以降の予定を説明して就寝。ぼくらは家に帰ったけど、扉は繋げたままにした。まあまた明日来ないといけないからね。




