第二十三話:戦闘終了(散り散り)
小隊長殿は真っ先に逃げました。
機関砲ではやり過ぎじゃないかと言われたので機銃に。持つのだるかったから手持ちじゃなくて設置式にしたかったんだよね。対人戦とか想定してなかったから対人兵器とか殆どないんだし。
屋根の一部が開いて、三台の機銃が顔を出す。装填してんのは弱装弾。これで直撃でも安心!
「な、なんだあれは!?」
「怯むな!」
「一斉突撃!」
無駄な突撃をしようとしていたので機銃斉射。弱装弾だからそこまで……あ、なんか沢山蹲ってる。
「だ、だ、ダメです! 近付けません!」
「バカな!?」
「こ、ここは退却した方が良いかと」
「バカもん! 我が栄えあるザスカー帝国の精兵があんな虚仮威しに屈して退けるものか!」
むう、どうやらあの大隊長が意地になってるみたいだな。仕方ない。それじゃああの大隊長を狙い撃つとしよう。アリス、ライフルであいつ撃っちゃえ。
「分かりました、ご主人様!」
アリスが構えるのはアーマライトM16。知る人ぞ知るアサルトライフルである。スナイパーライフルじゃないのかって? いや、アリス普通に近距離主体だからなあ。近場でも取り回せるようにね。
まあ、スナイパーライフルが必要な超遠距離射撃じゃないし、これでも十分でしょ。という事でアリスが屋根の上に登る。体重で屋根抜けたりしないよね?
「出て来たぞ!?」
「何か持っている」
「撃て、魔法で撃ち落とすのだ!」
無数の火炎球が放たれた。だが、そのどれもがアリスに届かずに消えていく。この家、耐火住宅なんだよね。
「私は一発の鉛玉。鉛玉は何も考えず目標に向かって一直線に」
まるまるだとパクリって言われるから少し改変してアリスに教えたよ。スナイピングする時の合言葉みたいなものってね。
そして引き金が引かれる。これもまた弱装弾。それが狙い過たず、大隊長の下腹部に直撃した。うーわ、あれ、再起不能になってないかな?
「だ、大隊長がやられた!?」
「撤退、撤退だ!」
「付き合ってられるかよ!」
兵隊たちは大隊長が崩れ落ちる様に気絶するとそのまま三々五々逃げて行った。一人だとこの森抜けられないかもだもんね。
後に残ったのは大隊長、アヤさん、スレッグさん。こないだの小隊長さんは居ないみたい。逃げたかな?
「あ、あの、その、アリス様、この度は……」
アヤさんが泣きそうになりながら頭を下げている。あー、アリス? その二人は多分大丈夫なんだろ? 家に入れてご飯食べさせてあげなさい。
「かしこまりました、ご主人様」
アリスは屋根から降りると二人を招き入れ、大隊長は担ぎあげた。残しといたら獣が来て食べちゃうと散らかるからね。
「おや、アヤ様、スレッグ様。またいらしたんですね」
アインはしれっと言ってのけた。まあアインはご飯作ってただけだからなあ。
「今日は煮込みハンバーグですからボリュームはありますよ。良かったですね。ミンチになったお味方がいらっしゃらなくて」
そうなんです。殺傷を迷ってた理由はアインがハンバーグ作ってたからなんですよ。さすがに人肉バーグとか実物みながら想像したくないよね。
「あの、アイン様、どうぞこの度のこの不手際、真に申し訳ないと」
「アヤ様に決定権はなかったのですから気にしなくて良いとご主人様が」
言ってないけどな。まあそれについては概ね同意。アヤさんにもスレッグさんにも罪は無いだろう。
「それと、私の事は様付けで呼ばれませんよう。私は飽くまでメイドですので」
「しかし……」
「私に様付けしてしまうとご主人様にどの様な敬称を付ければいいのか迷いますから。さすがに臣下でもない方にご主人様呼びは遠慮していただきたいですし」
いや、別にお前らも臣下でもないよ? ぼくそんな偉い人間じゃなくて単なる引きこもりだからね?
「分かりました。アインさん」
「それでいいんですよ。さあ、煮込みハンバーグ食べましょう。私はご主人様の所に届けてまいります」
階段を上る音がして、ドアがノックされた。アインが煮込みハンバーグとサラダを持って来てくれた。野菜とか大根おろし程度でいいんだけどな。
「ご主人様、あの者たちの処遇ですが」
「うーん、まあ普通に帝国に帰してあげたら? あの大隊長からはなんか情報聞き出したいところだけど」
「分かりました。拷問の手配でしたらお任せを」
「あー、拷問とかはいいから質問程度で。横で美味しいもの食べながらだったら十分でしょ」
拷問すると家が血で汚れちゃうからね! いや、獣の血で汚れるのは良いのよ。人間の血が嫌なだけで。
「かしこまりました。では何かありましたらまたお命じください」
「わかった。美味しそうな煮込みハンバーグだから楽しみだよ」
「……失礼します」
パタンと扉が閉まって心做しか弾む様な足取りが階下に降りていった。




