第二百十四話:マグロ(仮)の解体ショー
オフ会でマグロの解体ショーをやったアイドルPが居るらしいよ!
歩美さんにはゆっくりしてもらって、海に残ってるアニマルズの面々にはピーター君から連絡させた。ぼくの方はぼくからの念話で終わるんだけど。
「ご主人様、食事の用意が出来ております」
「ありがとう。ここに運んでくれる?」
「かしこまりました」
歩美さんを歩かせるのはどうかと思うし、何よりあまり家の中をうろつかれるのも嫌なのでご飯を運んでもらう。
テーブルの上には所狭しと料理の皿が並べられていた。大皿料理が何品かと個人用の膳が一人一つ。個人用の膳はご飯、お味噌汁、漬物、焼き鮭、海苔、玉子焼き、とまあジャパニーズ朝食スタイル。別にバイキングでも良かったと思うけど、それは食べ過ぎちゃうからダメなんだと。
一方で、大皿料理は刺身の盛り合わせ。これは正体分からないけど、毒でもないし、刺身にしても大丈夫そうなやつをアインの独断で刺身にして提供。こと、料理に関してならアインの判断は間違いないので遠慮なく食べる。よし、じゃあまずこの厚めの肉の魚から。むっ、なんかハマチっぽい。ぼくが食べてるのを見て、歩美さんも恐る恐るといった感じで口に運ぶ。頬が綻んでため息が零れた。そうか、美味しかったんだな。
別の大皿料理は白身魚のフライ。これまた正体の分からない魚だ。小さいのは一匹丸々揚がってたりする。小さいのは釣ったんじゃなくて網で漁りました。タルタルソースをつけていただきます。歩美さんはタルタルソースを見て泣いてた。マヨネーズはあったけどタルタルソースは作れなかったんだそう。玉子が手に入らなかったんだとか。
玉子が無いと何かとわびしい食生活になりそうなので、品種改良をしたロックバードを何羽か提供した。歩美さんはロボーたちに家畜の世話を任せるような意図のようだ。牧羊犬ならぬ、牧鶏狼だね。
他の大皿料理としてデカい伊勢海老らしきものも茹でてあった。いや、朝から伊勢海老はどうかと思うよ。あ、中身はサラダ? 殻が立派たがら装飾に使っただけなのね。よく見るとサラダの中の海老は小さいものも沢山入ってた。これも網に引っかかったやつ。
「ではそろそろ」
とか言いながらアインがゴロゴロと引きずって来たのは台に置かれた巨大魚。セイバートゥースが釣り上げた全長三メートルの巨体。アインは包丁を握り締め、一礼する。ええと、もしかして解体ショーなのか? 巨大魚の頭とヒレを落として、腹と背に切れ目を入れる。ズバッと切って背身の部分を取り外す。赤身が美味しそうな光を放っている。
「食べられますか?」
アインに聞かれたので赤身の部分を分けてもらって食べる。新鮮だからか口の中に濃厚なマグロの味が広がる。これは美味いわ。この巨大魚はマグロだったんだな。
「あ、トロ、私も、食べたい」
日本人たるものトロに心を動かされないものは居ないと思う(偏見) 歩美さんも例に漏れず、マグロ大好きらしい。中トロの部分を切り分けてもらって口の中に入れる。さっきよりも喜色が濃いよ。
お腹の部分を切り分ける。そこに燦然と輝く部位、大トロだ。ぼくも歩美さんも待ち遠しい様に提供されるのを待つ。いざ! 口の中に濃厚な脂の甘みが広がる。回らない寿司屋で食べるというのはこういう事なのだろうか。いや、食べたことないけど。歩美さんも幸せな顔をしている。もうすっかり船酔いは大丈夫な様だ。
大トロがメインでは無い。エラの部分の裏、カマトロ。一尾につき二個しか取れない希少部位である。ぼくと歩美さんで仲良く一個ずつ。これは……大トロよりも甘いかもしれない。言葉を失う。
あらかた解体し終わると、剥がした中落ちをこそいでネギトロの軍艦巻き。ぼくはネギが好きなので少し多めに。うん、これも美味い。アインはそのまま引っ込んで行った。
再びアインが出てきた時、何か鉄板の上に載っている。ほほ肉の鉄板焼きだって。これまた一尾に二個しか取れないらしい。希少部位だね。味は……塩が効いてて柔らかくて美味しい。さっきから美味しいしか言ってない様な気もする。だも別にグルメリポーターじゃないんだから美味しいだけでいいと思うんだよ。それとも海の宝石箱や〜とか言った方がいいのか?
さすがにぼくら二人だけで全部を食べる事は出来ないので適当に余ったやつはとっておいて貰う、いや、アニマルズのみんなに食べてもらってもいいんだけど、あのメンツの中で魚食べそうなのアルタイルぐらいしか……あ、レッドメットも一応魚食べるのか。サーモンハンティングとかやらないかな?
一通り食べて、船に戻ろうと思ったけど、歩美さんは今戻ると確実にリバースして女性としての尊厳を失うみたいな事を言っていた(支離滅裂だったけど多分あってる)のでぼくらだけ戻って、陸地に着いたら扉で迎えに行く事に。ピーター君は残って、セイバートゥースはぼくと一緒に船へ。アインとアリスは家に残した。動き回られたくないからね。




