第二百十三話:突撃、お宅訪問
海の上にはまだ乗組員たち(モンスター)が!
朝ごはんの食材を探すのはみんなでやる事に。そのまま森へと行ってもいいけど、それだといつもと変わり映えしないよねって事で海へ。
船は歩美さんのDPで購入。ぼくのネットスーパーで買っても良かったんだけど、乗組員までついてこないからね。歩美さんのDPなら操作するモンスターまでついてくるんだよ。
そう、モンスター。歩美さんのDPはダンジョン運営の為の能力なので生物も生み出せるのだとか。実際、スパリゾートの裏方やってるのはモンスターだしね。動力源はダンジョン内の魔力だそうで。
というわけで船で海に出発。潮風が気持ちいい……あ、歩美さんが倒れた。顔色悪いね。船酔い? あー、そういうのもあるのか。ぼくはなんで平気なんだろうか。やっぱりFPSとかで視界がゆらゆら揺れてるのに慣れてるから?
歩美さんはベッドに寝せておいて、ぼくらは釣り糸を垂らす。まあ釣れるかどうかなんてどうでもいい。なんならネットスーパーで食材買えばご飯作れるんだもん。
海の真ん中での釣りなんて初めてだ。小さい頃に父に連れられて漁港にハゼ釣りに行ったのが最初で最後の釣り経験だと思う。夜店の水風船釣りは釣りには含みませんよね?
釣り糸に餌をつけて釣り糸を垂らす。釣竿はちゃんと買いました。餌は練り餌です。沢での釣りならその辺の石の下に居るクリーチャーを使ってもいいんですが、この海の真ん中に居る魚がそういうのを好むのかとか分からないので。ほら、なんてったって異世界ですから。
「来たぜ来たぜ、おりゃあ!」
セイバートゥースが一番に釣り上げた様子。釣れたのは……デカイな! なんか角生えてるよ? しかも歯がギザギザだし。
「ええと、これは、ツノザメですね」
ピーター君が持っていたモノクルをすちゃっとかけて断言した。それ、もしかして鑑定能力ついてるメガネ? 便利なの持ってるね。
「食べられないことはないけど大して美味しくもない、だそうです」
「なんだよ、美味くねえのか。じゃあいいか」
セイバートゥースはツノザメを海に放り込んだ。針に掛からないように遠くに投げてたからこっちに寄ってこないと思う。
「私の方も来た。見ててね、主様!」
次にかかったのはアリスの竿。頑張って引き上げるとうにゃうにょ動く物体が。身体中に青い模様がついてて気持ち悪い。触りたくない。
「うえー、なにこれ?」
「それは……ウラナリヒョウモンダコですね。毒を持っているタコです」
「毒!? 主様、触っちゃダメだよ、死んじゃう!」
「毒性はそこまで強くないので身体が痺れるくらいなんですが」
「えーい!」
アリスはタコを竿ごと海に投げた。槍投げの遠投かな?キラッ、なんて効果音は出ないけど見えないくらいには遠くに飛んだ。アリスには代わりの竿をあげよう。
それからしばらく普通の魚が何匹か釣れた。ぼくもそれほど大きい魚じゃないけど釣れはした。釣果というのだろうか。魚拓をとりたくなる人の気持ちが分かる気がする。確かにぼくは釣ったんだ、という証を残しておきたくなる。まあ食べるために釣ったんだけど。
アウトドアな趣味なんてどうかなとは思ったけど釣りをするのも良いかもしれない。部屋の中から釣り堀みたいなので釣れたらもっといいけど。早起きとか苦手だからそういうのがない方がいい。お座敷つりぼりみたいなの無いかな?
「せっかく歩美様もご主人様もいらっしゃいますから、こちらで食事にしましょう」
アインがそう言うが、歩美さんはグロッキーなままだし、船の上ではまともに食事も出来そうにないと思うよ。
「問題ありません。ご主人様、扉をお願いします」
あ、そうか。歩美さんをうちに連れて行けばいいのか。意識の朦朧とした女の子を連れ込むのはどうかと思うけど、今更だよな。
歩美さんをセイバートゥースに運んでもらって、ソファの所に寝かせる。ベッドに運び込んでも良いけど、そういう用意周到そうなのもどうかと思うしね。
「では、私は料理がありますので」
アインが心做しかスキップの様な仕草をしながら台所へ向かっていく。なるほど。台所が使いたかったのか。別荘の台所はここほど設備整ってないもんな。
歩美さんにはアミタが開発していた気分回復薬を飲ませる。味はミント味だ。誰だ、歯磨き粉とか言ってる奴は!
「あ、ううーん、ここは?」
「うちです」
「え? なんで? 海の上に居たんじゃ?」
「家庭の秘密です」
「え? あ、はい。分かりました」
まだ頭の中にハテナが浮かんでいる様だが気にしないでいこう。セイバートゥースからは頭を下げられた。ピーター君は家に興味津々の様子。モノクルであちこちを見てる。いや、識てる?
「あの、そこかしこで「女神の秘密よ」ってメッセージが書いてあるのですが」
どうやら禁則事項はモノクルでも見えなさそうだ。さすがは女神様。さすめが。




