第二百十二話:含羞む構造
「はにかみながら」を変換しようとしたら漢字出なくてカタカナになった件。「はにかむ」ならちゃんと変換出来ました。めんどくさい。
歩美さんは「良かった」とにっこりと笑った。コミュニケーションと言うにはあまりにもお粗末な感じだけど一歩目は踏み出せたのかもしれない。そうだ、ここはぼくの居たあの息苦しい世界じゃない。歩美さんもぼくを否定しない。今のところは、だけど。
そう考えるとこの世界に来てぼくのことを否定してきた人間は少なかった気がする。軍隊進めたり、催眠してきたり、暗殺しようとしたりはあったけど。考えたら相当濃いな!
バーベキューもあらかた終わってそれぞれ別荘に戻って寝る。えっ、砂浜なら花火だろうって? いやいや、さすがに異世界の浜辺を花火のカスで汚したくないよ。お掃除大変じゃないか。
翌日。朝早くに目が覚めてしまった。いつもは家でゲームしてるから夜更かししてたんだけど、何も無いここでは寝るしか無かったんだよ。ゲーム用のスマホとかあったらゲームしてたんだろうなあ。
朝ごはんまで時間あるからなんだか歩いてみたくなった。いや別に特に意味とかはない。運動という程のものでもなく、ラジオ体操とかでもなく、ただ、凝った身体を動かして解したかったのだ。
家にいる時は出掛けるなんて思わないで、ベッドの上でゴロゴロしてたんだけどなあ。まあでも空気も美味しいし、それはそれでいいだろう。
「あ、おはようございます」
「えーと、おはよう」
目の前に可愛いパジャマを着た美少年が居た。そう、ピーター君である。未遂とはいえあんな事もあったなあ、としみじみ思い出す。その後の歩美さんとの話の方が個人的には衝撃過ぎてこっちは喉元過ぎてるみたいになってるけど。
「あの、キス……いえ、人工呼吸の件はすみませんでした」
「あ、いや、別に。その、たすたす助けようと、してくれくれたし」
「あ、でも、その、キスが嫌とかじゃなくて、恥ずかしくて、あの、ごめんなさい」
キスが嫌じゃないとか一体どういうつもりなんだろう。フラグでも建てにきてるの? いや、落ち着け。きっとキスくらいは歩美さんと日頃からちゅっちゅしてるってことだろう。そう考えると歩美さんはぼくよりも進んでる様な気がする。
「ぼくは、べべべ別にその、キキキキキキスとか経験、ない、からからね」
「はい、ボクもありません」
え? つまり、経験はなかった。歩美さんとちゅっちゅしてる訳でもない正真正銘のファーストキス? いやいや人命救助、人命救助だから! だからあの桜色のほのかにぷるんとした唇も味わってみたいとかじゃ。
「主様、おはよう!」
後ろからアリスが飛びついて来た。アリスはぼくに飛びつくと、隣に居たピーター君をジロジロと見た。
「主様」
「なんだよ」
「主様はオトコノコの方が好きなの?」
違うわ! というかなんという勘違いしとるんじゃ。とはいえ、慌てて否定したらいかにも本当になってしまう。いや、パペットなんだから特に言い訳をする必要も無い気がしたんだけど。
「あの、アリスさん、ボクはその、別に、護さんの事はなんとも」
「なんで頬染めて含羞みながら言ってんの?!」
「き、気のせいですよ、ごめんなさいごめんなさい」
ピーター君がぼくの服の裾をキュッと握り締めた。アリスはそれを目敏く見つけ引き剥がす。
「ふんぬ!」
「あ、破れた」
「大丈夫です。後で作ってもらいます。アインに」
自分で作るとは言わないよね。まあアリスだと雑巾しか出来ないと思うんだけど。武器とかの取り回しは得意だし、器用にやるのに、創作系の手先の器用さは皆無なんだよなあ。
「そんなことより……ピーター君! 主様の寵愛を受けたかったらまず私を倒してからにしてもらいます!」
なんだその付き合う男女の為に試練を与える門番みたいなやつは。驚邏大四凶殺? 大威震八連制覇?
「いえ、その、そんな、アリスさんを倒すだなんて」
「出来ないとは言わせない。私の目を盗んで主様に近付こうだなんて不届き千万!」
別に朝起きたらたまたま出会っただけで近づこうとしたのとは違うと思うよ? でもアリスは言っても聞きそうにないなあ。
「ピーター、あ、いたいた」
「おはようございます、歩美さん」
「あ、護さん、おはよう、ござい、ます」
「ご主人様、ピーターはいましたか? おや、おはようございます」
「ご主人様も起きていらっしゃったのですね。姉様もおはようございます」
寄ってきたのは歩美さんとセイバートゥース、アイン。朝の準備で食材を探しに行こうとアインが散歩していたらセイバートゥースと歩美さんがピーター君を探してたんだそうな。
「俺も食材を探しに行こうって事で、ご主人様が着いてくるって言うからな。ついでにご主人様が抱っこして寝てたピーターを探そうと、なんだよ?」
「もう、もう、セイバー! バカバカ、なんで言っちゃうの!? なんで護さんの前で言っちゃうの!」
別にピーター君を抱っこして寝ても構わないと思うよ。ほら、恥ずかしくない。ぼくは自分のパペットを抱っこして寝ないけどね!