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第二百十一話:一歩、前、へ

これでやっと一歩踏み出したのかなというところでしょうか。

 なんだかんだでお腹が空いてるのは間違いない。アインが焼いてくれてるからぼくらは食べるだけだ。と、言っても本来ご飯を摂取しないといけないのはぼくと歩美さんだけなんだよね。


 よく焼けた串焼きのお肉をパクリ。バーベキューソースがしっかりと肉に馴染んでいて大変美味しい。マスタードをつけると更に美味しさが増す様だ。歩美さんは塩コショウで食べるのが好きみたい。マスタードも要らないんだって。


 ぼくら二人が食べてる横で食べないのもどうかというのでアニマルズ、パペットのみんなが食べ始める。一番意地汚く食べてるのはレッドメットだ。控えめにしてるのはエイクス。やはり元が草食動物だからだろうか? ピーター君はマシュマロを食べてる。小さな口元に柔らかいマシュマロが運ばれていくのはなんというかこう変な気分になるというか。


 パペットのみんなも食べている。特に食べてるのがアリス。次がアミタだ。動くことないのに食べてるのは職人だから? 身体の割には食べるのが職人だもんね(偏見) アンヌがその次。医者は健啖家が多いというのはどこかの統計であった気がする。身体が資本だもんね。


 あ、もう一人食べてる奴がいる。フォルテだ。サイズ的には食べなくても問題なさそうなのに、何故か人間大になってまで食べようとしている。意地汚すぎるだろ。


 アルタイル、アイン、アカネは食べてない。アインはもしかしたら料理しながら食べてるのかもしれない。でもまあ必要ないんだけどね、食事。アルタイルとアカネは周辺警戒をしている様子。さすがに斥候役と言えよう。


 アスカは付け合せのサラダのドレッシングのつもりで持ってきたマヨネーズに夢中だった。マヨが六、サラダが四くらいの勢いでかけてる。このマヨラーめ!


 セイバートゥースは食べながらではあるが見回りをしているみたいだ。夜の浜辺、それも皇帝陛下の私有ビーチで何が起こるのかは分からないけど、警戒はしてるみたい。


 お酒とかは特に無くても美味い料理があれば盛り上がる。例えそれが陰キャのものであっても。アニマルズの面々は陽キャにしか見えなくても基本的に歩美さんの配下であり、命令は絶対なのだ。無理やり連れ出すなんてのは運動とかでもない限りはない。


 つまり、月明かりの砂浜で気付くとぼくと歩美さんだけになっていた。手持ち無沙汰なのはぼくらだけなのでこれは理解出来る話だ。


「この、世界に、迷い、込んで、どうなるかって、思ったけど、護さんと、会えて、良かった、です」

「あ、はい、そうですね」


 当然ながら会話が止まる。ぼくらはそんな気分よく相手を喋らせる特技には恵まれてないのだ。


「月が、綺麗、ですね」

 

 ついつい口から出た言葉なんてその程度のものだ。当然ながら愛の告白とかそういうものでは無い。ただ、口から出ただけなのだ。


「はい、あの、その、もしかして、そういう、意味で?」

「そういう意味……あっ!」


 こと、ここに至ってやっと言った意味が理解出来たのである。勿論歩美さんに対してそんな気持ちはこれっぽっちも芽生えていない。まあ、運動頑張る同志みたいな感情はあるけども。


「違います、違います、その、そういう意味じゃ! いえ、その、歩美さんに魅力がないとかそういうのではなくて、ぼくに、ぼくが全部悪いんです!」


 慌てて否定する。思えば今までの人生、否定ばかりだった。染み付いた人生経験ってのは誰も責める人も居ない異世界でも変わる事は無くて、というか引きこもり的な生活してるんだから変わる訳も無くて。


「いえ、あの、別に、悪いとかじゃ、ないと、思い、ます」


 え? 歩美さんが言葉を返してきた。単にさっきのは話を終わらせるためのぼくの一人混乱劇みたいなもので、別に聞いていようがいなかろうが関係なく、そこでおしまいになる様なものだ。誰も聞いてないし、「なんだあいつ、変なの」で終わるようなものだ。


 なのに歩美さんは踏み込んできた。「ぼくが悪い」で終わる話を終わらせないで踏み込んだ。こんなぼくとコミュニケーションを取ろうと言うんだろうか。


 正直に言って、歩美さんはコミュニケーション能力高くないと思う。なんかいつもあがってるような感じだし、自分から喋るのにいつも意気込んでから喋ってる感じ、言葉を発するのに覚悟がいる感じだ。


 そんな人がぼくに話している。何故だろう。ぼくにこんなお節介を焼いてくる人間なんて居ないと思っていた。おそらく歩美さんにとっては「見知らぬ世界に流された同郷人」くらいの感覚なのかもしれない。それでも……ぼくを否定はしなかった。


「えーと、違わ……なくて、その、ぼ、ぼ、ぼくも、その、歩美さん、と、であ、であ、出会えて、えてて、て、よかっ、よかよかよか、良かったって、思って、思って、おもおもおも、ってます!」


 よし、言えたぞ。これ以上ないくらいはっきりと。スムーズには言葉は出なかったけど言えた。

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