第二百六話:あつはなついでんな
赤龍は五龍の中では一番の下っ端!
あれだけ尊大だったのはどこへやら。デカい図体を縮こませる様に赤龍が恐縮している。
「アスカ、消臭出来る?」
「任せて。〈聖域〉」
結界を張る魔法だと思うんだけど、赤龍の身体が浄化されていく。ダメージは受けてないみたいだから問題なさそう。よし、臭いも大丈夫になった。あ、お茶会中は「メイドの嗜み」とやらで臭いをアインがシャットダウンしていた。どうなってるのかは分からん。
「ご主人様、ドラゴンってどんな味すんのかね?」
「食べるの、ダメ、だよ?」
「ちぇっ、じゃあねえか」
レッドメットはしぶしぶ諦めたような感じだが、あの臭いの肉を食べようと思うこと自体がおかしいと思う。
『そ、それで、我はどのようにすれば』
「は?」
『あ、いえ、去ります。直ちに立ち去ります。金輪際ここには来ません!』
いや、別にぼくらの邪魔しないんならこの森も広いんだし、全然どっか行かなくても大丈夫だから。あ、ぼくの家の場所と歩美さんのダンジョンの場所だけ教えて、そこには近付かないようにしてもらおう。
『はっ、決して、決して、近付きませぬ』
近付いても身体中に穴開けられるだけだからそんなにいい事ないからね。あ、畑があるか。
『我は普段から魔力を取り込むことで生活しております。その気になれば肉も食べられますが』
あれ? さっきはぼくの味がどうとか言ってなかった?
『その、人間が菓子などを食べるような感覚です。食べずとも生命維持には影響ありません』
なるほど。それなら特に人間を週に何体食べないといけないとかはないんだね。それがある様なら処分しとかなきゃと思うんだけど。
『ひ、ひぃ〜、や、や、やめてください』
「そう、言えば、五龍、とか、言って、ましたが、他の、龍が、襲ってくる、なんてありますか?」
ああ、敵討ちって奴かな。よくも俺の兄弟分を! なんて始まって、憎しみの負の連鎖がそこから繋がっていくんだよ。弱いぼくは何を憎めばいい、ああ、誰か教えて。
『我ら五龍は仲間意識というものがありませんからな。余程の物好きでないと無いかと。青龍は領域が海ですし、緑龍は我とは犬猿の仲、黒龍は火山の火口に居ますし、白龍は聖国にいたんですが行方不明です』
黒龍が火口なの? てっきり赤龍が火山とか火口だと思ってたわ。
『いえ、あそこは燃やすものが無いもので』
どうやら放火衝動があるらしい。これは今のうちに潰しておくべき?
『ちっ、違います! ほら、何かあった時の脱出路の確保に森だと火に紛れて逃げられますから』
なるほど。大方その辺の見解で緑龍と仲が悪くなったんだろうなあ。
まあこのまま放置してもぼくら以外こんな森の奥に来る事無いだろうし、ぼくらの家やダンジョンからも離れてるしね。赤龍はそのままにして帰宅。散歩も終わりになったよ。
この散歩、歩美さんもこれなら続けられそうだと頑張るらしい。ぼく? ぼくは頑張らなくてもいいと思うんだけど、毎回アスカやアインにさらわれる。さらわれるってひろういんなの?
散歩コースの終着点を赤龍のいた広場にしてみた。そこで整理体操しておしまいなのだ。こういうダイエットは無理せずコツコツ続けないといけない。
そんなこんなで季節は夏。この世界もちゃんと四季があって、ひと季節が三ヶ月、九十日になっている。きっちり六日で一週間らしい。月月火水木金ってやつかな? 安息日というか休日もちゃんとあるんだって。しかも週休二日。二日働いて一日休みな感じだと。月水土木金日みたいな感じ?
まあぼくみたいな引きこもりに曜日なんて関係ないのさ! いや、最近はお店出してるから曜日関係あるんだけど。うちは交代制で休んでるから年中無休で稼働できます。
まあお店の方は従業員や奴隷、そしてゴーレムたちが頑張ってくれてるお陰で繁盛してるんだよね。孤児院の子どもたちも頑張ってるみたいだし。
そんな中でもぼくらは森の中を歩いて運動している。でも、季節は夏。暑いんですよ。そりゃあ二十一世紀日本みたいな物凄い猛暑日なんてものはないんですけど、外で運動するには適さない季節になったんです。
「これ以上は熱中症になりますね」
アンヌがパタリと突然倒れた歩美さんに駆け寄って診断した。ねぇ、ちゅう、しよう? それは悪魔の囁き。した途端に血の雨が降る。いや、ぼくも歩美さんにするつもりないけど。
しばらくは森でのエクササイズというかお散歩をやめてはどうかって話になった。外を歩くのは宜しくないという結論だ。やはり暑い夏はクーラーの効いた部屋でアイスを食うのが一番だろう。
「夏なら泳げばいいのでは?」
「でも、プールは、人、たくさん、居るし」
「ご主人様、海に行くのですよ」
そう言えばこの世界の海にはまだ行ってない。それもまたいいかな。あ、でもなんか海にもドラゴン居るみたいな事言ってなかったっけ?




