第二百四話:これまでに無かった! 1台でシェイプアップできる
アブドライバーは架空の商品です。
「これは電気により筋肉に刺激を与えて、筋肉を鍛えるマシーンや!」
それ、なんてアブなんとか。いやまあ体力ないぼくらからしたら助かるんだけど。
「これなら疲れることなく鍛える事が出来るんや。まあ見とり」
アミタはベルトをぼくのお腹に巻いた。こういうのってジェルとか要ると思うんだけど。
「問題ないで、ジェルなんて単なる目安や。後は勇気で補えばええ」
ぼくは勇者王では無いんだけど?
「冗談やん。ジェルなんぞのうてもパッドから緩やかに水が出るから問題ないんや」
それって部屋の中でやったら確実に水垂れ流しだよね? っていうか今のここでも垂れ流しじゃない?
「出る水はそのまま機械に吸い込まれて循環するから大丈夫なんや」
どうやら循環型社会を目指したようなデザインらしい。こういうのをユニバーサルスタジオ……じゃないデザインっていうのかね。
「ほな、旦那はんで最終実験……もとい、本番やろうや」
今最終実験って言ったよね? まだ実験段階なの?
「うちらパペットなのに確かめられる訳ないやん。やからこればっかりは旦那はんにやってもらわななあ」
アミタがニヤニヤしてる。いや、着けるよ。着ければいいんだよね。
「ほな、アブドライバー、起動や!」
お腹の辺りで振動がブルブルしているのが分かる。なるほど、これは運動してると言われるのもわかる。お腹が痛くなってきた。これはもしかして、もしかしなくても……筋肉痛?
「あー、旦那はん、相当運動しとらんかったんやね」
大きなお世話だ。でも寝てるだけで腹筋鍛えられるのは悪くない。歩美さんに悪いけど、ぼくはこれで頑張る。
翌日、ぼくは原因不明の腹痛にやられていた。なぜた? 筋肉痛は昨日味わったはずだというのに。
「筋肉痛ですね」
いや、アンヌ。筋肉痛は昨日通り過ぎたハズでは?
「いえ、その、あれは早発性のもので、今回のは遅発性だと思われます」
二種類あるの? 筋肉痛の癖にそんなに種類あるんだ!?
「大丈夫です。その痛みが強い筋肉を作ります。あ、痛み軽減の魔法とかは使えませんので」
は? なんでだよ、こんなに痛いのに治せないの?
「治すのは簡単ですが、そうすると筋肉が成長しないので腹筋も鍛えられません。やってきたことが無駄になります」
無駄か、無駄は良くない。何よりあんな思いまでしたんだから頑張らないと。
それから筋肉痛が治まるまで医務室のベッドが定位置だった。部屋に戻ればいいのにって? そうしたらまた出てくるまで時間がかかるからダメなんだって。
歩美さんも目を覚まして同じ様に筋肉痛を訴えたそうだ。地道にやっていった方がいいのかも。楽してやるのは負担がかかる。
「今日から森の中を歩いてもらうことにします」
要するにウォーキングだ。なんで中でやらないのかと言うと、これ以上貸切にするのは難しいからだ。再開の要望が舞い込んでるらしい。
かと言って他の人たちと運動するなんて無理無理無理無理カタツムリ。それなら、と、森の中での散歩を勧められた。いや、森の中って普通に危ないよね。
「大丈夫です。主様の事は私たちで守ります!」
ボディガードでパペットとアニマルズが全員ついてくるらしい。アミタも? なんか採取するものがあるらしい。
「森、の中は、空気が、綺麗、ですね」
洞窟の中は空気とか綺麗じゃないんだろうか? ダンジョンコアの特殊能力とかで空気清浄機能とかついてないのかな?
「空気、汚い?」
「もちろん、ダンジョンも、空気、綺麗、ですけど、自然なのは、ないので」
なんとか意思疎通出来るくらいまでにはなったな。ぼくのコミュニケーション能力の賜物だ。普通の会話をするのも時間の問題だぞ。……三年くらい先かなあ。
しかし、歩美さんは空気が綺麗とは言ったけど、確かに空気はそこそこ綺麗だ。でもなんというか変な鳴き声とか血の臭いとかそういうのが漂ってる。
この森の日常はこんな殺伐とした雰囲気らしい。アヤさんって実際強いんだよね。普段を見てると信じられないけど。そのアヤさんをして、命からがらになってウチに辿り着いてたんだから推して知るべし。
ちなみにさっきからサルの化け物みたいなのが樹上から波状攻撃を仕掛けているんだけど、アスカが結界張ってて滑り落ちるように弾かれるんだよね。
で、弾かれた先にはアリスやらレッドメットやらセイバートゥースやらが待ってるって寸法。いや、血煙が舞ってるからところどころ景色が赤い。まあ身は安全なんだけど。
上空からはロックバードがこっちの様子を伺ってたが、アルタイルがひと睨みしたら散っていった。何? 鳥たちに命令聞かせる怪音波でも発信したの?
そんなこんなで歩いていたら開けた場所に着いた。開けた場所、と言っても森の中の開けた場所だ。そこに鎮座しているものがあった。デカい。赤い。そして……臭い。




