第二百二話:掛け算で結ばれる世の中は
リアル知り合いでやってしまう方は本当に居るらしい。ソースは妹。
「見ないで、見ないでください〜」
涙目になりながらも人前に出て来るのは褒めてあげても良いと思うんだよ。あと、今日は貸切だからぼくら以外には見てないよ?
「その、アリスさん、とか、アインさん、とかみたいな、美人で、スマートじゃ、ない、からっ、その、そんな人に、慣れ、てる、護さんに、見られるの、恥ずかしい、ですっ」
いや別にぼくもそんなにアリスとかアインの裸とか見てないよ? というかまさか着せ替え人形遊びとかしてるとでも? あ、ちなみに着せ替え人形と書いてもビスクドールとは読まないのでそこんとこよろしく。
「なんだ、いい子じゃない!」
アリスがなんかデレデレし出した。褒められたからかな? いや、確かにアリスはぼくが理想を込めて作ったんだけどさ。ほら、ある程度好みは反映されてるわけで。
ぼくにとって巨乳というのはあまりアピールポイントでは無い。なぜならそれは「女性」という事を強調するからだ。マンガチックな巨乳は現実感無さすぎてアリだけど。
だからアスカとアミタはロリ巨乳にしてる。長身で巨乳は実際に居そうだから怖い。いやいや、ちゃんとアスカもアミタも魔力タンクとしての巨乳だから構造上仕方ないんだよ。筋肉密度で言うとアリスも巨乳には出来たんだけど、格闘するのに巨乳は邪魔だからね。ひゅーほほほほほとか高らかに叫ばれても困るし。
で、なんでこんなことを言ったかというと、目の前にいる歩美さんがいわゆる「身長がそこそこある巨乳さん」なのだ。最初に会った時にはそのジャージにどてらって格好と身の上話に気が向いてあまり気にしなかったんだが、ぶっちゃけスタイルがいい。モデル体型だろう。ただし、痩せれば。
「あの、その、私も、一緒に、歩きます、のでっ、頑張り、ましょう」
うんうんと自分に言い聞かせるように言葉をかみ締めていた。いや確かにぼくも一人で運動するよりは一緒にやる人がいて欲しいと思ったりはする。プリキュアだって初代も二代目も二人組だし。え? ルミナス? うん、まあそこは置いとこう。
「それやったらネーチャンもこれ飲みいや」
「さすがにそれは承服しかねるのだよ」
「なんや? 毒とか入ってへんよ?」
「毒かどうかもわからん様な怪しい薬、ご主人様に飲ませる訳にはいかないのだよ」
ウチの知性派(狂気)のアミタとアニマルズの知性派エイクスがなんかもめてる様だ。いや、毒ではないと思うよ。ぼくに飲ませたんだし。なんだかんだでぼくを傷付ける行動は取れないからね。いや、一服盛るのは傷付けないのかとか色々疑問だけど。
「大丈夫です。飲み、ます!」
「ほな、これどうぞ。いちごミルク味やで」
どうやらコーラ以外にも色々味があるらしい。まあぼくはコーラ一択……ドクペ味は? えっ?
無いの?
「ぷはぁ、これ、甘くて、美味しい、です」
「まあ、ご主人様が飲むと決めたのなら反対はしないのだよ」
「ああ、なんか、身体が、熱い……」
歩美さんの身体に汗が滲んできた。なんというか汗かいてるのって少しえっちな感じするよね。ぼくの汗とかはなんというか気持ち悪いだけなんだろうけど。
「女性の方が薬の効果ええからなあ。それで運動したら痩身効果バツグンやで!」
なんでも女性ホルモンに働き掛けるとか何とか言ってた。ううむ、女性ホルモン、ぼくには少ないから仕方ないかな。
「では、歩きます。私の、後ろに、ついて、ください」
歩美さんが隣のレーンに入って歩き始めた。ぼくもそれを見て歩き始める。水の中だとただ歩くという行為でもそれなりの負荷が掛かる。前は見てるけど、横のレーンの歩美さんなんか見てる余裕は無い。
プールの壁に着いた時は肩で息をしていた。なんだこれ、こんなんでもキツイぞ?
「休憩、しましょう」
歩美さんに言われて休憩していたらおかしな事に気付いた。トレーナーが空いてなくて歩美さんになったはずなのになんで貸切なんだ? 貸切にするくらいなら歩美さんじゃなくて誰か一人がついていてくれても良かったんじゃ?
「それには私から説明しよう」
すっと歩み出てきたのはアルタイル。彼の話ではこうだった。歩美さんが運動不足なのは分かっているが、一人だとどうでもいいとやらない。そこで同胞たるぼくが頑張ればそれに呼応して頑張るかもと。
歩美さんの思惑としては、ぼくとアニマルズが絡んでやってるとなんというか「掛け算」をしてしまって、妄想が止まらなくなる、そしてきっと鼻血を出す、絶対だ。なんだそうな。ちなみに、歩美さんは口に出していないが、妄想がダダ漏れしてて念話で理解されたそう。
ウチのパペットたちの思惑としては、飽くまで敵対とまではいかないが、まだ信用しきれてない相手にぼくの背中は預けられない。自分たちが制止できる距離に置きたい、とまあ利害一致したわけだ。
なお、アリスだけが「主様に女を近付けたくない!」と主張しそうだったので秘密にしといたんだと。




