第二十話:帝国の使者(偶発)
アヤちゃんは可愛いよりの美人です。
オークにもロボーたちにもここには攻撃しないように、と言い含めておいた。そしたら時々ロボーが獲物を持ってきてエサを強請るようになった。まあ、作るのはアインだし、良いんだけど。舌が肥えたな。
オークたちはこちらに近づかないように住処を移動したらしい。いや、別に近くに暮らす分には構わんのだが。
「それじゃあこれがレオン様救出の報酬です」
嵐の運び手の四人が来たのはそんな時だった。まあ来るとは言ってたからなあ。それで幾ら持ってきたん?
「まあ相応の謝礼だと思いますよ。白金貨五枚ですからね」
確か白金貨一枚で百万円ぐらいだったな。あと五百万あれば新しいパペットが作れるんだな。
「ありがとうございました。それではお帰りください」
「いや、そりゃないですよ、アインさん。オレらアインさんのご飯を楽しみにここまで来たのに」
「なんなら一泊させて欲しいところなんですけど」
「料理を出すのは構いませんが、宿泊はお断りします」
いや、料理出すのも断れよ!って思ったけど、アインにもなんか目的があるのかもしれない。ぼくとしては面倒極まりないんだけど。
その時、ドンドンと扉を叩く音がした。おやおや、今日は千客万来だな。モニターで見ると揃いの黒服……いや、鎧かな?を着た男が三人程激しく扉を叩いている。
「おい、誰か居ないのか? 出てこい!」
なんかとても居丈高だから凄く気に入らないんだけど、このままだとうるさいからなあ。というかアラームとか鳴らなかったよね? あ、家を壊せるような危険性がないから? そうですか。
仕方ないから応対にアリスを行かせる。アインは料理中だしな。
「早く開け……」
ガチャ
「何か用ですか?」
「ひっ、ひいいいいいい、バケモノ!?」
アリスはマッチョな巨漢だがバケモノでは無いよ。女性だから巨漢というのもちょっと語弊があるかもだけど。
「私はアリスと申します。当家に何の御用でしょうか?」
「ここに住んでいるのか?」
「はい、そうです」
「食糧はあるか?」
「少量ならお譲り出来ると思います。それなりの対価は要りますが」
「あるならあるだけ寄越せ! 俺たちを誰だと思ってるんだ!」
「さあ、どなたなんでしょう?」
アリスが可愛く小首を傾げた。マッチョでなければ可愛らしい仕草だったろうに。
「俺たちはザスカー帝国の者だ!」
「はあ、ザスカー帝国ですか? 残念ながら存じません」
「な、なんだと!?」
これみよがしに帝国とやらの名前出したら知らんと言われる。なんという屈辱的な。いや、ぼくも知らないし、ましてやパペットの二人も知ってるわけがない。
「貴様、俺たちに逆らえばどうなっても知らんぞ!」
そう言って先程から先頭でグダグダ言ってた男がアリスに剣を向けた。
「今更詫びたところで腕の一本は貰うからな!」
「えーと、それっ」
カキン!と音がしてグダグダ男の剣がアリスが取り出したバットに弾き飛ばされた。しかし、嫌な音だな。や、やめろ、天井する金なんて今はないんだ!
「なあっ!?」
「まだやりますか?」
「まっ、まままま待ってください!」
悔しそうにしてるグダ男の後ろから短髪赤髪の美女が慌てて出てきた。そしてそのまま流れる様な土下座。この世界にも土下座ってあるんだ。
「私の上司が申し訳ありません。私はザスカー帝国陸軍第三師団ゴンドール王国方面軍、第四大隊所属、アヤ・トーリエと言います」
「はあ、これはご丁寧に。私はアリスです。国とかには属してません」
「実は我らはこの森より、オークが侵攻して来るという予兆を掴んだため、調査に入った次第です。ですが、その際に食糧が尽きてしまい、難儀していたところにこの家を見つけて藁をも掴む思いで来たのです」
あー、つまり、計画性も無くオークを調べてたら食糧尽きてお腹すいてイライラしてたのね。それならグダ男の態度も納得だわ。
「そうですか。それなら少しで良ければ食糧を供出しますよ。対価は……まあ持ち合わせがないならそのうちで」
おいおい、ボランティアやったんじゃないんだぞ、とか思ったけど、怖そうな軍人さんに綺麗な女性? 無理無理! コミュニケーション出来る気がしないよ!
とか言ってたら階下からいい匂いが。この匂いはビーフシチューか。どこぞのドラゴンさんの大好物らしいね。てか角煮といい、ビーフシチューといい、時間かかるものをよく作るなあ。よし、今度圧力鍋でも買ってやるか。
「この匂いは……」
「なんですかこのいい匂いは」
「たまらんっす」
残りの一人はすっすな語尾の人でしたか。
「ちょうど先客が居るところですが、騒動を起こさないと言うなら食事を分けましょう」
「お願いします!」
いや、なんでアリスまで勝手に決めてるんだよ!
「申し訳ありません。ですが、まだ未知の帝国の情報を手に入れるのが先決かと思いまして」
あー、情報収集か。大事ですね。まあアリスとアインに任せますか。




