第百九十六話:少し頭冷やそうか?
ばにたす、ばにたーたむ、えと、オムニア、ばにたす。
あ、一番好きなのはアビドスです。あとティーパーティー。
「このオレ様がこんなところで、ぐおおおおおおおお!」
なんか唸ってるみたいだけど身体はあまり動いてない。アリスの体重に耐えられないんだろうな。ん? 何で今アリス、こっちを見たの?
「主様、私は重くないです。羽根のように軽いんですから! ほら、背負ってください!」
ムラーキーを放り出したかと思うと、ぼくの背中に飛び乗って来た。ふわりと羽根のように重さがない。あー、重力操れるから重さを限りなく軽くしたな。でも、今アリスがここにいるという事は……
「急に軽くなった!? ふはははは、バカめ。やはりその技を続ける事は出来んかった様だな」
限界というか乙女心というか。乙女回路は搭載してないはずなんですけど。
「今度はこちらの番だな。そら、死ぬがいい!」
破損して掴みあげた床の破片をぼくに向かって投げつけて来る。いや、あんなの当たったら死亡しちゃうよ! アリスは……まだぼくの後ろにいる。これは間に合わないか?
ああ、なんか今までの出来事が走馬灯の様に……おかしいな、走馬灯が部屋から動かないんだけど。そりゃ引きこもりだから見てきた景色は部屋の中だもんな。あ、パソコンは点いてたからそこは変化あったと思う。
「ライフルロック、ファイア」
「させません!」
「間に合え!」
アインの銃とアカネの苦無とアンヌのメスが飛んで来た。軌道が僅かに逸れてぼくの横わ凄まじいスピードで破片が通り過ぎた。ライフルロックって、手に持ってるのリボルバーマグナムだよね? 買ったのデザートイーグルだもん。銃を撃つならばにたす、ばにたーたむとか言うといいんじゃないかな? あ、ぼくはアズサよりもサオリの方が好きかなあ。
「主様、今、別のオンナの事考えなかった?」
「アリス、今敵と対峙中じゃないのか?」
「だって、主様が「こいつ重いよな。上に載せたくないな」って顔してたんだもん!」
「そんな事は考えてないから早く倒して来て」
「終わったらベッドの上で抱き着いてもいい?」
「重さとは別の理由で拒否する」
「もー!」
そもそもベッドで横になって寝るなどあまりないのだ。ぼくの本体は椅子に座って寝るかリクライニングシートでウトウトするかだもんな。
ともあれ、アリスが再びムラーキーの前に立った。
「もう、せっかくの主様とのイチャイチャチャンスだったのに、邪魔しないでよ!」
「何を言っているのだ? この、私の、神の前で!」
「あのう、神は私なんですけど」
大変申し訳なさそうにフォルトゥーナさんが口を挟む。というかフォルトゥーナさんには直接戦闘能力とか無いんですか?
「私が下界で人殺したら過干渉になって色々まずいことになりますけど?」
「さっきは天罰できるとかそんな事言ってませんでした?」
「天罰は自然災害的なものですから」
個人を狙うものでは無いから大丈夫なんだって。対象には取れないけど、全破壊なら全部おっけーって事か。さすがは神の怒り。
「主様が怒るからちゃっちゃと片付けます!」
「先程は油断しただけだ。貴様など私に近付く事も出来んのだ!」
ばっとムラーキーが手を広げると、竜巻のようなものが起こり、地面にあった床の破片がムラーキーの身体の周りを回り始めた。
「はっはっはっ、これで私に近付く事も出来まい? さあ、一人ずつくびり殺してやる!」
アリスは意にも介さずそのまま近寄って行った。暴風の只中へと。
「全身の骨を砕かれて死ぬがよい!」
破片が飛んでくる。どこから飛んでくるかなんて予測出来ない状況だ。アリスは無造作にその中に入り、飛来して来た破片を事も無げに掴んだ。
「何!?」
それを投げ捨てるとまた次の破片が飛んでくる。その破片もどんどん取ってどんどん捨てている。
「当たっても大して痛くないんだけど、当たって傷とか出来ると主様に嫌われちゃうから」
それぐらいで嫌いにならないし、傷とか出来たら普通に修理するけど、そんな事を口に出したら自分から当たりに行きそうなので黙っておいた。
暴風の中をどんどん進み、まるで何も無い荒野を歩いているかの様に近付いた。
「来ちゃった(はーと)」
「バカな!」
「残念だけどここまでだね。殺さないようには気を付けるよ」
「貴様、神に向かって!」
「一度神様って殴ってみたかったんだ」
アリスがちょこんと両拳を前に突き出した。次の瞬間、ドゴン、と音がして、ムラーキーが吹っ飛んで行った。
「あー、しまったなあ。吹っ飛んで打ちどころ悪くて死んじゃうのはノーカンだよね?」
そもそも殺すなとか言ってなかったと思うんだけど、まあ不殺をしてくれるならそれはそれで精神衛生上いい事だ。
「チーフ、あれ、実験材料にしていいですか? うふ、うふふ、解剖したい」
危ないのはこっちに居たか! ダメだってーの!




