第百九十五話:100%中の100%だ。
身体は崩壊しません。
「コホン。使徒護よ、よく私を呼び出してくれましたね」
「なんか偉そう」
「偉いんですよ! この世界では偉いんです。ほら、崇めて、崇めて!」
このまま反発しても話が進まないので従ってあげることにした。パペットのみんなも念話で傅かせる。
「枢機卿ムラーキー、あなたは聖職者の身でありながら人身売買に手を染め、私服を肥やしていました。その罪、とても許されることではありません」
「う、う、う、う、うるさいっ! 私は、私は、選ばれた人間なのだ! 貴様らのような有象無象とは違うのだ! そう、神にも等しい存在だ!」
実際の最高神の前でよくもそんなことが言えるもんだな。なんかおクスリやってる?
「そうだ、こいつらを全部、全部、まとめて始末してしまえば良いのだ!」
いやなんかヤバい感じになってるけど、フォルトゥーナさん、神罰とか与えなくていいんですか?
「神罰与えたらこの聖堂どころか国ごと消えるけどそれでもいい?」
「いいわけないでしょう! やるならぼくがいなくなってからにしてください!」
「護さんも大概酷いこと言いますよね」
なんかアヤさんにすごい目で見られた。いや、だから、やれって言うんじゃなくて少なくともやると言うならって話ですよ!
「はーっはっはっはつはっ。これだ、これだ。奴隷を使い潰して開発したこれさえあれば!」
ムラーキーが懐から錠剤を取り出した。なんだか嫌な予感しかしない。現実逃避するための睡眠薬とかじゃないよね。あと、多分ラムネ菓子でもない。
ムラーキーは手に持った白いものを一気に飲み干した。あ、水無くても飲めるんですね。いや、噛み砕いてるのか?
「ふおおおお、力が漲る!」
ムラーキーの身体が膨れ上がり、それなりに背は高かったのだが、三メートルくらいまで伸びた。そして修道服の肩の部分が破れ、中から筋肉が盛り上がった。ちっちゃい重機が載せられているかのような僧帽筋だ。いや、三角筋かな?
「清々しい気持ちだ……なぜもっと早くこうしなかったのだろうか」
ぽつりと呟く。
「す、枢機卿台下!? こ、これは一体……」
「どれ、自分でもどれくらいのパワーなのか分からんからな。試してみるか」
ムラーキーは丸太のような太い腕を振りかぶり、近くに居た騎士へと振り下ろす。
「! アスカ!」
「はいはい、〈障壁〉!」
頭に叩き付けられるはずだったその攻撃は僅かに角度を変えて床へと叩き付けられた。
「うわ、割れた。あれ異常」
アスカの障壁魔法が割られたらしい。そんな威力なのか?
「確かに無詠唱の障壁なら私でも割れるけど」
アリスでも割れるのか。いやいやいやいや、アリスが出来るから他の人も出来るとはならんやろ。
「むう、割らせない障壁魔法もある。でも準備必要。あと、アリス姉様とはやりたくない」
「えー? アスカちゃんの練習にもなるじゃない」
「無理、無理。姉様の打撃止められるの、地上に居ない」
なんか物騒な話してるな。
「むう、外してしまったか。横やりを入れてくれたな、小娘!」
「私はそこまで強くない。どうしてもと言うなら姉様が相手する」
「えー? アスカちゃんやりなよ」
「姉様、そこまで言うなら私がやる。あいつ倒したらご主人様が褒めてくれるだろうし」
「よし、どこからでも掛かってきなさい!」
アリスがやる気マックスで名乗り出た。いや、確かに褒めるのは褒めるよ?
「貴様の様なひ弱なやつが、この私に勝てるとでも思ったかあ!」
ムラーキーが腕を突き出す様に凄まじいスピードでアリスを吹っ飛ばそうとする。
「よい、しょ」
アリスはその腕を取ると、巻き込む様に背負いで投げた。アマレスの巻き込み式一本背負いだ。
「ぬぅ!? 投げただと!?」
地面に受け身も取れず叩きつけられたムラーキー。でも大してダメージは食らってないみたい。
「この程度の攻撃、効くものか!」
「いや、これで終わりじゃないけど?」
アリスは一本背負いした腕をそのまま取って捻りあげた。脇固めというやつだ。効いてるのかは分からん。
「な、なんのこれしき!」
肩関節が変な感じになってるのに無理に立ち上がろうとするムラーキー。もしかしたら痛覚とか遮断されてるのかもしれない。いや、脳内快楽物質が過剰噴出してるのかもしれない。ドーパミンかβエンドルフィンかは分からないけど。
「起き上がらせないよ!」
アリスが恐らく重力操作でもしたのだろう。それまで持ち上がりかけていた腕が再び地面に沈んだ。
「姉様、体重が増えてるみたいで使いたくないって言ってたのに」
「姉様もそれだけご主人様に褒めてもらいたかったのでしょう」
褒めるよ、終わったら褒めてやるとも。でもまあこれで終わりって事も無いんじゃないかな? 終わってくれるのが一番楽なんだけど。




