第百九十四話:こーりん、こーりん!
現場に引っ張られすぎな引きこもり。
「出来ました、チーフ!」
思わずアンヌが声を出してしまったが、何が出来たのかは分かるまい。まあセーフだ。
「これで教皇猊下も元に戻ります!」
いや、そんな事まで叫ぶなよ。むふー、褒めて褒めてみたいなドヤ顔はどうかと思うんだよ、うん。
「アンヌ、出来たのは凄いんだけど、それをどうやって教皇猊下に?」
「何言ってるんですか。投げるに決まってます」
投げる? 投擲? スロー? おまえは何を言っているんだ?
「その薬はもしかして、爆発して煙状になって吸い込んだら効果があるとかそういう」
「何言ってるんですか。注射ですよ」
ええと、注射器をここから投げる? だいぶ遠いよ?
「問題ありません。私、失敗しないので」
いや、医療技術に関してはそうだろうけど、そんな神業みたいな事まで出来るように作った覚えはないよ?
「まあまあ見ていてください。仕上げを御覧じろですよ」
「はっ、な、何をしている! 止めろ、止めろ! 教皇猊下に怪しい薬を投与する気だ!」
しまったなあ。普通に話してたから筒抜けだね。仕方ない。自信がありそうだし、アンヌに任せるか。
「てぇーい!」
勢い良く振りかぶって投げた注射器はあさっての方向へ宙を舞った。
「あるぇ? まあいいでしょう。失敗は成功の母って言いますし」
「いいわけあるか! 早く次の薬を作れ!」
「どうやら失敗したようだな。今のうちだ、捕らえよ!」
いやいや、盟神探湯の結果は無視ですか? でもなあ、ここは相手のホームグラウンドなんだよなあ。
フォルトゥーナさんが降臨するにはフォルテが必要だし、そうするとぼくがこの場に本体を持って来なくちゃいけなくなる。ううん、ちょっとそれは御免被りたい。
「はっ、私は一体……」
あれ? 教皇猊下がまともに戻ってる? 何で? 時間で解けた? いや、そんな馬鹿なことをするわけが無い。でも回復の為の薬はあさっての方向に……
教皇猊下の後ろでアカネがピースをしていた。もしかして、アンヌがあさっての方向に投げた注射器を素早く回収して二階に移動し、しっかりと注射したのか? これはアカネのファインプレーだ。
「ほ、ほら、やっぱり失敗じゃありませんでした!」
アンヌがドヤ顔で言ってきた。後でアカネにお礼言っとけよ。でもまあ薬が効いたのは良かった。
「ムラーキー、お前は使徒様に何をしておる!」
「教皇猊下、前も言いました通り、使徒様と言い張ってるのは猊下とそこの男だけにございます。確たる証拠をお示しください」
どんなピンチの時も絶対諦めない。そうよ、それが苛烈な枢機卿のポリシー。
「もちろんですとも! さあ、使徒様、その証を再び示し……ん?」
あ、ヤバい。これはまたやらなきゃなのか? いや、そんなこんな危ない場所で【入城】なんてやったら万一があるんだから……
「主様、大丈夫です、私たちが守ります!」
「ご主人様、問題ありません」
「ご主人様、結界張っとく」
「旦那はん、行ってきたらええやん」
「チーフ、怪我しても治します」
「御館様、今こそご出陣を!」
聖堂に居ないアミタまで乗ってきている。こりゃ出ないとダメか。
「フォルテ、フォルトゥーナさんを呼び出すから準備してくれ」
「えー? そんな、今いいところなんだけど」
「マンガなら帰って来てから読んでくれ」
「違うよ、もうちょいでロンダルキアなんだよ」
「ゲームかよ! 帰ってやってくれ」
「そんな!?」
ぼくは【入城】を使った。いや、こんなに使うなんて想定してないよ。出来るだけ引きこもりたかったのに。
「ん? なんか一人増えたか?」
ムラーキーの言葉通り、フォルテが増えました。
「もう、あんたね、あんたのせいなのね。またあのダンジョンを最初から攻略しないといけないと思うと気が滅入るわ。どうしてくれるのよ!」
「え? な、なんだと? ダンジョン? 何の話だ?」
「おお、使徒様、そして女神様!」
「何、女神様だと? このちんちくりんが?」
確かに今のフォルテはちんちくりんと呼ばれるに相応しい感じだ。否定は出来ない。
「なんですって!? ちんちくりんかどうか、その目で見なさい!」
フォルテの身体がキラキラ輝いて、天から光の柱が降り注ぐ。エンジェルラダーとも呼ばれそうなそれはやがて収まり、そこにはフォルトゥーナさんの姿が……姿が……
「地上に住まうものたちよ。我が名はフォルトゥーナ。この世界を創りし創成の女神」
「そんな、バカな、馬鹿な、ばかな、BAKANA!」
ムラーキーの顔が青ざめてガタガタ震えている。そして周りの騎士たちは跪いている。教皇猊下も二階にひれ伏している。うーん、それはそうと。
「フォルトゥーナさん、わざわざ胸盛って降臨したんですか?」
「ほっといて!」




