第百九十一話:カチコミじゃあ!
なんも考えてんで突っ込んでいきました。もっと上手いやり方もあったかもしれませんが、こんなものです。
アンヌの腕を持ってしても半分くらい黄泉比良坂を転げ落ちてたみたいな人の完治は難しい様だ。外面的な治療は完了してるので精神的な面なんだが。
「今はこれが精一杯です」
別に手から花とか出したりしない。まあ回復するのを待ってるといつまで経っても追及出来ないのでこのまま乗り込んでしまおう。
大聖堂の前。みんなで揃って点呼。アリス。
「はい、主様!」
アイン。
「ここにおります、ご主人様」
アスカ。
「ん」
なんか喋れよ。アミタ。
「んー、なんや旦那はん? なんかトラブルでもあったん?」
念話でちゃんと返ってきた。まあ自宅待機中だもんな。アンヌ。
「はっ、バイタル正常です、チーフ。ただ、まだ意識のサルベージが手間取っております」
刑吏の付き添いとして頑張ってくれ。そいつ、一応間に合うか分からないけど証人なんだから。アカネ。
「御館様のお側に」
声はすれども姿は見えず。何処にいるかは分からないが側に居るというならそうなんだろう。熱光学迷彩もついてる事だし。
「私は呼んでくれないんですか?」
「いつの間に合流したんですか、アヤさん?」
「その前に私の無事は祝ってくれないんですか?」
「そりゃあ殺しても死なない……あ、いや。無事で良かったです。ほっとしました」
包みきれない部分もあったが目いっぱいオブラートに包んで言葉をかける。なんか最近ではペースト状のオブラートもあるらしいね。知らんけど。
「か弱い私も頑張って逃げたんですよ。逃げる途中で二、三人ぶちのめしましたけど」
か弱いって言葉を辞書でひいてみよう。そこにアヤ・トーリエって名前が……あるわきゃねえ! そこに書いちゃダメですよ。落書き禁止。
なお、兵士の皆さんは捕まってる模様。外で見てないからね。でも、捕まえてるって帝国との外交問題になりゃしませんかね?
「貴様ら、止まれ!」
騎士たちがぼくらを呼び止めた。普通に大聖堂に入るには参拝なら制限はされないはずなんだけど、どうやらぼくのことは知れ渡ってるみたい。これでもあまり目立たない方だと思うんだけどなあ。
「女が集団で……間違いない、こいつらだ! 使徒様を騙る不届き者だぞ!」
ぼくじゃなくてみんなが目立ってたみたい。さもあらん。みんな美人に作ったもんね。自慢の造形ですよ。
「あのー、実はちょっと教皇猊下にお話しが」
「猊下は度重なる心労でお休みになられておる!」
どうやらまだ監禁されてるのだろうか。でも監禁されてるって言ってもムラーキーが否定したらそれまでだし。
「うちの兵士たちを返してください。帝国とことを構えたいんですか?」
「そ、それは……枢機卿台下のご命令だからダメだ!」
まあ番人としては仕方の無い答え。はい分かりましたなんて渡してくれる訳もない。となると、強行突破かなあ。
「アスカ」
「むう、仕方ない」
アスカが詠唱を始める。
「吹き荒れる風を司りしもの、極北より吹き来たりて眼前の物を吹き飛ばせ。天嵐」
珍しく詠唱なのは避難する時間を与える為。呪文の詠唱とわかった時点で門番さんは避難していた。力ある言葉が解き放たれると、目の前にあった木の扉は粉々に砕けて吹っ飛んでしまった。
「じゃあ通る」
「ま、待て!」
どうやら正気に返ったらしく、門番さんがホイッスルの様なものを吹いた。でもぼくらはクマじゃないから逃げたりしないよ。あ、増援要請か。呼子笛みたいなやつだね。
「なんだなんだ」
「侵入者か?」
「捕らえろ!」
うじゃうじゃと門番というか衛兵だけでなく、騎士鎧を着た人たちまで駆け付けてきた。
「こりゃあ突破するのは骨だなあ。頑張ってね」
「もちろん、主様には指一本触れさせないよ!」
アリスがやる気だ。ぶっちゃけ一人で暴れさせるだけならアリス一人で十分だと思う。広範囲殲滅ならアスカも居るし。単純戦闘能力ならアカネは文句無く、アインとアンヌもそれなりに出来る。
もっとも、アインは銃を持たないといけないし、アンヌは相手が生身でないと難しい。なので二人は最低限の護身に留める。
アヤさんは……まあ大丈夫だろう。アリスほどでは無いにしろ強いって話だし。えっ? ぼく? 強いわけないじゃないか! ぼくはクールに去るよ。というか避難するよ。
戦闘が始まった。アリスが騎士が塊ってる所に突っ込んでいって、あっという間に三人のした。鎧の上から殴ってたからきっと鎧通しとか寸勁とかそういう奴だろう。凹んでるように見えるのはきっと気の所為。
アスカは地面を凍らせる魔法を掛けていた。ほら、騎士たちの足元、金属製のブーツだから。ツルツル滑って大変な事になってる。なかなかやるなあ。
アインもアンヌもぼくの横で待機。時々来る奴らをアインが狙撃して、アンヌが関節を外している。なるほど、サブミッションか。




