第百八十一話:みんな、丸太は持ったな?
相手は吸血鬼じゃないですけど。
ぼくが囲まれておたおたしてると、テントの方から声が聞こえた。
「主様、どこー?」
客観的に見るとアリスは美少女だ。ぼくが絡まなければ間違いなくモテるだろう。いや、胸は大きくは無いけど。戦闘の邪魔だしね。でも足は長いんだよ。ここ重要! テストに出ます。
「おお、アリス殿。あそこにおられるアリス殿が巨大亀、アーケロンを倒したのです!」
「ますます信じられねえよ! どうやったらあんな筋肉もないヒョロい身体で倒せるってんだ!」
どうやら川の男たちは筋肉至上主義者らしい。
「アリス」
「あ、主様だ。わーい! ……あなたたち、主様に何をしてるの?」
近寄ってきたアリスがぼくが怯えてるのを見てスイッチが入ったらしい。いや、アリス。この人たちは悪くなくてね。いや、悪いのかもしれないけどきっと悪気は無いんだ。ぼくが対人関係がダメダメでガクガクになってるだけでね。
「何をも何も、ただ話を聞いてるだけだ。法螺話としか思えないからな」
この人たちの言い分もわかる。「退治しました!」って言われて安心してるところを襲われたら客諸共にダメになるからな。確認大事。ぼくが同じ立場でもそうする。
「あの亀は私が殴り倒したよ。文句ある?」
「なっ!?」
まあ確かに信じられないだろう。実情を知らなければアリスは単なる美少女なんだから。
「バカな、あんたみたいなお嬢さんが? さすがに話を盛りすぎだ!」
「そうだそうだ。お嬢さんで何とかなってるなら俺たちは困ってないぜ」
「まさか川に時々いる小亀を倒したのかな? そりゃあちょっと舐めすぎだよ」
うーん、と顎に手を当てて考えるアリス。その仕草、どこで覚えた?
「どうしたら信じてくれますか?」
「俺たち三人と戦闘をしてもらって三分間耐える事が出来たら少しは認めてやろう」
「あ、そう。それじゃあ別に認めなくていいから船出して」
「認めるまで船はだせん」
いや、ぶっちゃけ、ぼくらだけならなんとでもなる。川を渡れば良いのだ。アミタに船を作らせたり、アスカに転移で運んでもらったり、アリスに投げ飛ばして……これはやめよう。
問題は一緒に来てる騎士たちと兵士たちなのだ。置いて行く訳にもいかず、かといってさっきの方法でやるには手間もかかるし、あまり大っぴらにはしたくない。アヤさんくらいなら良いけど。
「アリス、やれ」
「骨は拾ってください!」
「折ってもいいですけど粉々は復元が難しいので考えてください、アリス姉様」
砕く気満々だったみたい。アンヌに言われてアリスは不満そうな声を上げた、いや、だからね、彼らも生活がかかってるんだから用心するのは当然。だから確認の為に証拠を見せてやらなきゃいけないんだよ。
アリスが仁王立ちで立つ。川の男たちは手に手に角材を持っている。これが丸太だったら危なかった。アリスは亡者じゃないから心配ないか。ダークウォーリアー戦で丸太というか引っこ抜いた木を使ってたしな。あの時は今の身体じゃなかったか。
「どりゃああああ!」
「お嬢さん、悪く思うなよ!」
「顔には傷がつかないようにしてやるぜ!」
三人はそれぞれバラバラにアリスに殴り掛かって行って、その全てをアリスに止められた。
「うおっ!?」
「うっ、動かねえ」
「バ、バカな!」
丸太を武器にしてる、ということでもわかる通り、川の男たちは筋肉自慢だ。筋肉至上主義者だからね。つまり、頭に自信がなくてもパワーには自信があるのだ。
「よいしょ!」
アリスは受け止めた丸太をそのまま上に放り投げると、三人をあっという間に足をひっかけて転ばせた。転倒したところに上から丸太が降ってくる。
丸太を振り回せる人間であっても、上空から丸太が激突してしまえばどうなるか。良くて骨折、悪くて死亡だろう。さすが丸太だ、なんともないぜ!なんて事にはならない。
「ひああああああああ!」
落ちてくる丸太を横から蹴飛ばして、アリスが吹っ飛ばした。蹴った方向には何もいないのは確認済みのはず。確認済みだよね?
「立てる?」
アリスが手を差し伸べてやった。いやまあなんというか優しい子に育ったものだ。
「あ、ああ、済まない……」
ガシッとアリスが男の手を掴むと、そのまま引っこ抜くようにしてハンマー投げみたいにぼくの方にぶん投げてきた。って、おい!
「ご主人様任せて。〈柔壁〉」
飛んできた男を壁が優しく包む。これは人をダメにするソファみたいなやつか? 壁を触ってみる。あ、ネバネバしてる。スライム状だな。
「さすがアスカちゃん。どんどんいくよ!」
アリスが二人目、三人目とこっちに投げて来た。壁は出しっぱなしなのでそのまま受け止める。三人目とか半分泣きながら投げられてたぞ。




