第百八十話:本体に攻撃、通ります
今こそATフィールド発動の時!(出ません)
アリスにフォルテの位置付けを説得して納得してもらい、ついでに頭も撫でて機嫌を取った。手は疲れたけど、アリスの機嫌はなおったので良かった。
だが、安心しきったアリスがそのままぼくの膝で寝てしまったので帰るに帰れなくなった。フォルテは姿を消してもらえばいいけど、どうすんだ、これ?
「使徒様、野営の準備が出来ました」
「あ、はい」
騎士の一人が呼びに来てくれて、短く返答するぼくを見て、そして膝の上のアリスを見て納得した様にそっとその場を離れてくれた。アリスが寝ててくれて良かった……いや、寝てなかったら帰れてたよ!
「それではご主人様、私はあちらで皆さんの食事を作ってきますので」
「ぼくはその、カップ麺でいいかなあ」
「いけません。ちゃんとした食事をお召し上がりください」
キッと睨まれた。そりゃあまあアインのご飯は美味しいから食べるに越したことはないんだけど。
「お待たせしました。お食事をお持ちしました」
アインがご飯を持って来てくれた。ぼくの分、アリスの分、そしてアスカの分。
「アスカも出てきて食べなさい」
「了解。アイン姉様」
「さあ、食べましょう!」
何故ここにいるのか分からないアヤさん。こういう陽キャラは現実に居ると確実にぼくに継続ダメージを食らわせて来るんだよなあ。
「アリスちゃんは寝てますね。いやあ、護さんの膝枕、羨ましいなあ。私にもやってくれません?」
「あ、いや、その……」
「??? どうしたんですか? もしかして満更でもない? いやあ、照れちゃいますね。アリスちゃんが起きたら私もお願いしますね!」
「あ、は、はい」
「ん? 何かおかしいですね。あの亀吸収した後遺症ですか? そういえばなんかちょっと全体的に太めな様な……」
や、ヤバい。もしかしてアヤさん、気付いてる? 怖い怖い怖い怖い。
「アヤさん、食後のデザートにパフェはいかがですか? 特別に作って差し上げますよ」
「パフェ? パフェってなんですか? 美味しいものですか? 見つけにくいものですか? 冷蔵庫の中も戸棚の中も探したけれど見つからないので諦めたものですか?」
アヤさん、あなたは人の家に来て何をやってるんですかね? しかし、アインはグッジョブだ。これで暫くアヤさんはパフェに釘付けだろう。
「使徒様もこちらに来ませんか?」
「バカやめろ。使徒様はアリスさんを労っていらっしゃるんだ」
「まあ、あれだけの事をした者ですからなあ。そりゃあ仕方ありませんな」
どうやら向こうでは騎士たちと兵士たちが食事しながらさっきの亀との戦いについて話してるらしい。
そもそもあれだけ大きなバケモノなら、足を狙って止めた後に全員で囲んで退治するのが普通なんだそうな。それも「軍」と呼ばれるほどの規模の人間が動いて、だ。
今回の亀、アーケロンは足を狙おうにも川の中。囲もうにも川の中。囲めたとして全員で攻撃しても甲羅に阻まれる。挙句の果てには捕食されて手がつけられなくなる。こちらの人員はここに居るだけの極小数だから誰も退治しなかったのか。
結局、アリスはそのまま起きることなく、テントで寝る事に。ぼくは野宿というのを初めてした。ううっ、身体痛い……
翌朝、早朝のうちにアスカに頼んで帰ろうとしていたが、アスカは朝ごはんの獲物を獲りに出掛けたんだと。アリスは……まだ寝てんのか。まあ起きてぼくが居なかったら大騒ぎしただろうから良かったのかもしれない。
そうこうしてたら川上の方から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと……じゃなくて、数人の男が船を使って下ってきた。
「こりゃあ一体……おおい、あんたら、無事かい?」
「こっちは無事だが、そりゃあどういう意味だ?」
答えたのはぼくではない。だいたい知らない人とそんな話なんて出来るわけが無い。答えたのは騎士の一人だ。名前は覚えてない。
「ここにはなあ、化け亀が出るんだよ。山みたいにデカい奴。そいつが居なくなるまで船は出せなくてな」
なるほど、こいつらは渡し船を運営してる奴かな?
「なら安心するんだな。その亀ならこちらにおられる使徒様が倒してくださったからな!」
え? ちょっとこっちにキラーパスするのやめてもらっていいですか?
「本当ですか?!」
「いや、あの亀はそうそう簡単に」
「でも上ってくる感じだったのに一向に出会ってないぞ?」
そりゃあまあ遡上途中でぶっ殺したからなあ。ぼくじゃなくてアリスとみんなで。
「使徒様でしたかな? 我々としても信じられません。何か証拠などありませんでしょうか?」
「使徒様、こやつらに昨日の奇跡を見せつけてやりましょう!」
いやいや、近寄ってくんな、怖い怖い怖い怖い怖い怖い。どっちも屈強な男だから昨日のアヤさんより怖い! 騎士さんたちは銭湯のために身体鍛えてるし、船乗りたちは海の男って感じで鍛えてるみたいな。川の男なんだけど。




