第百七十九話:よく出来たら褒めてあげよう
なお、騎士の人たちや兵士の人たちは野営の準備中です。
さて、ぼくがアーケロンを収納して帰ろうとするとアリスが抱き着いて来た。
「うわぁーい、ホンモノの主様だー!」
「おいバカやめろ」
「はぁはぁ、主様のにほい。はぁはぁ、主様主様主様ぁ」
なんかだんだんアリスが壊れてきてるんだが修理した方がいいのか? パペットマスターを開いて状態チェックを……あ、ここじゃあ出来ない!
「アリス、離れてくれないと家に帰れないから」
「嫌です! 今日は主様と一緒に居ます!」
もうなんなんだか。仕方ないのでみんなのところに行く……いやいやいやいや! なんであんな沢山の人が居る所に行かなきゃいけないんだよ! 無理ゲーだよ、無理ゲー。
「使徒様、どうされたのですか? それより少し丸くなられた様な……」
ヤバい! ぼくが偽物だとバレる。いや、正確にはぼくの方が本物で、いつもの分身体が偽物なんだけど。本物と偽物の見分け方は簡単。ほら、人前に出すとキョドりますよ。どっちが偽物かは言わないで。
「ご主人様はあの様な巨大なバケモノを吸収なされて、お疲れなのです。川は渡れませんからここで野営して待ちましょう」
アインが気を逸らしてくれた様だ。なんだかんだ言ってもいざと言う時は頼りになるな。
「助かったよ、アイン」
「いえ、ヘタレでコミュ障なご主人様ですから予想出来た範囲かと」
はっきり言うね、お前。いやまあ事実なんだけど。
「主様、私も褒めて、褒めて!」
「そうだな。アリスのお陰で助かった。さすがアリスだ。さすアリだな」
「えへへへへ」
褒めながら頭を撫でてやると見えないしっぽをブンブンと振って喜んでいた。獣人型にするべきだったか?
「この世界に獣人なんて居ないわよ」
フォルテ。あ、そうか。ぼくにつられてついてきたのか。
「もう、せっかくマンガ読んでたのにいい所で呼び出されちゃったじゃないのよ」
お前は部屋で何やっとんだ。確かにやる事ないのかもしれないけど、それならそれでなんかさあ。
「護が部屋から出て冒険の旅とかに行くんだったらやる事いっぱい出来るけど?」
「大変申し訳ありませんでした」
でもさあ、ぼく、この世界に来る時、家で引きこもってていいよって言われなかったっけ?
「それはそうなんだけど、私はあなたが能力を得る前にお付きの形で用意されてたからナビとか魔物探知とか出来るようにしてたのよ」
「そんなこと出来たのか?」
「ええ、ほら、あなたの世界って異世界転生物とか転移物とか沢山あったでしょ? それで世界を見て回るものだって思ってたから旅に役立つ能力を詰め込まれたのよ」
まあぼくも前の世界で好んで読んでたから分かるけど確かにまだ見ぬ世界に召喚されたら世界を識りたくなるんだと思う。ぼくは外の世界怖いからそういうのいいけど。
「パペットの分身体で色々出掛けてるじゃないか」
「それにしたって帝国と王国の二箇所だけだし、第一、私はパートナーである護と離れられないんだからパペットについていけないの!」
さいですか。だからってネットスーパーで娯楽と食い物買って食う寝る遊ぶしてるのはどうかと思うんだけど。
「主様、主様のパートナーはフォルテちゃんなんですか?」
「そうよ!」
この場合、パートナーと言うよりはオプションの様な気もする。上上下下左右左右BAだ。……爆発はしないよね?
「フォルテちゃん、私、フォルテちゃんの事は嫌いじゃなかったよ。でも、でも! 主様を盗られるくらいなら……」
あれ? いや待て落ち着け。アリス。あのなあ、こいつは女神に押し付けられたおじゃま妖精でだな。
「私はおじゃま妖精なんかじゃない! 大根持って踊ったり、扇子両手にさっぱりしないわよ!」
お前が何の漫画を読んでたのかは分かった。あと、そいつらは別にマイナー妖精であっておじゃま妖精じゃない。
「フォルテちゃんをころして私もしぬー!」
いや、フォルテは女神の化身だし、お前はパペットなんだから厳密には死んだりしないだろ。全く。
「アスカ」
「了解、ご主人様」
思いがけずアスカを残していたのが功を奏した。フォルテに届かないように地面を陥没させて転倒させたのだ。古より伝わる伝説の精霊魔法、その名もスネア! この世界に精霊魔法があるのかは知らん。
「ふぎゃっ!?」
普段ならこんな初歩的な術には掛からないんだけど、我を忘れて居たのか、アリスはあっさりと転倒する。すぐさま立ち上がろうとしたのでぼくはアリスにチョップをかました。
「こら」
「あ、主様ぁ」
「弱いものいじめをしちゃダメだ。あ、いや、それだと戦闘がだいたい弱いものいじめになるな。うん。あ、フォルテもお前も家族なんだから家族に暴力はダメだ」
「だって、フォルテちゃんが主様の」
「いや、実際居ても居なくても良いくらいの存在だから」
「またまたぁ、私が居なかったら寂しがる癖に」
火に油を注ぐ様な事を言うな。あと、そんな事実は無い。




