第百七十六話:人生楽ありゃ苦もあるし、なんならゴブリンも居る
車で移動させようと考えたこともあるけどさすがに却下。
帰還を希望した騎士団メンバー三人、アヤさん、帝国の兵士五人、そしてぼくら。ぼくらはアリスとアイン、同行者が怪我した時のためにアンヌが基本。アミタは留守番で何かあった時の為にアスカが家で待機。アカネは現在肉付け作業中なのだ。
歩美さんに色々売却したお金のお陰で、肉付け出来るくらいのお金が貯まったのだ。いやあ、どんな風にするか楽しみ。身長は小さく、胸部装甲も薄くするのは決定。対魔忍にするつもりは無いからね。
野営などの準備は兵士の人たちが頑張ってくれてる。ぼくらは食事の提供はするが、基本的には何もしない。なんと言ってもぼくが「御使い様」とか何とかで崇められてるから何も出来ないのだ。いやあ、残念だなあ。
教会の騎士たちも捕まってる訳では無いので、自由に動けるのだ。いざとなったらアヤさんの指示に従わない気がするが、その場合はぼくの命令は聞くだろうなんて訳でここに居るのだとか。
ちなみに帰還を希望しなかった騎士たちはどうしたかっていうと、帝国の市民権を得てそのまま帝都で暮らすらしい。もちろん職業は何か斡旋してもらう必要があるんだけど。
しかし、聖国はかなり遠いらしい。二ヶ月は掛かるんだって。馬車が一日に進む距離はだいたい六十キロぐらいらしいので、二ヶ月、六十日だと三千六百キロ。日本からだと東南アジアのどこかに行くくらいの距離だ。まあ、馬車の場合は馬を休める日が必要になるのでそれよりも短いんだけど。馬にもちゃんと週休をってね。
途中で食べ物の調達は街に寄りながらになる。なので街に寄る分だけ、また遅くなる。実質で言えば三千キロぐらい? いや、伊能忠敬じゃないから分からないけど。
「主様、どうしてアスカの転移でビューって行かないんですかね?」
「そんな事したらうるさいのが殺到するだろ?」
「ご主人様、もう今更なのでは?」
いやまあ確かに帝国でも王国でも色々転移してるんだけども。それでもあれだ。行ったことないところには転移出来ないんだから仕方ない、仕方ないんだよ。
「アスカちゃんなら普通に空飛んで行けば速いと思います」
ま、まあ、そんなことをして警戒させても良くないからね。
「なんならアミタちゃんに車でも作ってもらえば」
「いや、車は道路が舗装されてないし、奇異の目で見られるから」
「まあ主様がいいならのんびり旅もいいけどね」
「まぁまぁ、姉様。ご主人様、食事の準備が出来ましたので皆様を」
全員を呼んできて食事。最初はギクシャクしたものの、アインの料理の美味しさが知れ渡ると我先にと食べる様になった。普通は乾いたパンと干し肉、水なんだそう。たまにスープがあるとか。
アインの場合、ストレージ経由で料理なんていう離れ業を編み出したらしくて、出先でも家の自分の部屋のキッチンを使えるんだって。どうやら個人の部屋ってのはそういうものらしい。アリスの部屋は人形でいっぱいらしい。意外だなって思ったら「姉様らしいです」って異口同音に返ってきたのはなんだったんだろうか。
夜の見張りは兵士たちが交代で。アリスもアインも寝る必要無いからと思ったけど、パペットって事は隠してあるので即応体制のまま寝てもらう様にしてる。もちろんテントは分けてある。親しき仲にも礼儀ありだ。
二日程で少し広めの街に着く。なんと巨大な農場の街であり、帝国の穀倉地帯なんだと。麦や肉も新鮮なものが多く、補充にピッタリ、と思ったら思った以上に高い。
「最近、魔物が森から出てきて畑を荒らすんですよ」
ぼくらのいる森ではないけど、魔物が出現するらしい。いや、冒険者に頼れよって思ったけど、街の予算の問題で依頼する金を渋ってるらしい。何をやってんだか。
「主様、ちょっと遊んで来ていい?」
「そうだな。騎士と兵士たちも連れて行ってあげて」
「あ、私も行きますよぅ」
「アヤさんには危ないんじゃないですか?」
「いやいや、護さん。私、強いんですけど……」
拗ねそうなんでアヤさんにも頑張って貰おう。ぼくらは宿屋で吉報を待つ。日暮れ近くにアリスがさっぱりした顔で帰ってきた。身体は血塗れでちっともさっぱりしてないんだけど。
「思ったよりゴブリンが多くてね。ゴブリンキングまで居たから殴り倒してきたよ。褒めてー」
一緒に行った騎士も兵士たちもアリスから少し離れている。返り血を浴びすぎたから……では無いよなあ。ドン引きされてるんだろう。それはそれでいいか。
冒険者ギルドに行って報告。ギルドの職員さんは最初びっくりして、その後何度も何度も頭を下げられた。よせやい、照れるじゃないか。あ、ぼくには言ってない? ですよねー。
あ、こら、それは真実なんだからアリスは暴れようとするな! これからちゃんと交渉しなけりゃいけないんだからな。まあ交渉相手は商業ギルドなんだけど。




