第百七十一話:千里(ダイエット)の道も一歩から
3歩進んで2歩下がる
という訳でブートキャンプです。意味的には新兵教育・訓練プログラムらしい。軍隊の訓練ならそりゃ厳しかろう。でも、こういうのは笑顔である。笑顔を浮かべながらやるのが効果的らしい。いや、気でも狂ってんの?
「ワンモアセッ」
「はひぃ〜」
試しに王妃様の応接室でアリスに指導をやらせてみたが、王妃様もラケシス様もバテバテになっていた。卒なくこなしてるアヤさんは何気にすごいんだなと思ったよ。
「いやあ、普通に訓練でやってますから」
なんて言ってたから見方を改める必要があるかも。
「そんな事より、出来たてのいちご大福、食べてもいいですか? いいですよね? いただきます! ん〜、おいしー」
……やっぱり気の所為かもしれない。食べていいなんて言ってないんだけど。いや、後で食べようと思って試作はしといたよ?
「あの、護さん、この、運動は、ダメです」
息も絶え絶えにラケシス様が言う。王妃様は……グロッキー過ぎて言葉も発せられない模様。これはあれだ。この負荷には耐えられないというか、日頃運動してない人なんだからダメなんだろう。ラケシス様とか戦場で剣を振り回すタイプのキャラじゃないからなあ。
「あの、もっと、こう、楽だけど、運動したって、気分に、なって、痩せられる、やつ、ないですか?」
うーん、さすがになあ。ダイエットには有酸素運動。激しい運動はあまりする必要なくて、脂肪の燃焼の為には軽い運動を継続して行うのがいいらしい。いや、ぼくも昔はやろうかなと思った事が……嘘です。調べるだけ調べといて面倒になってやめました。
「あ、アルタイルさん、ちょっと相談が」
「なんだ?」
「ええと、ダンジョンにプール、作れません?」
歩美さんとやり取りをしてもらって、それくらいのDPは貯まってるという事だったので、無理を言って五十メートルプールを作ってもらった。もちろん深さはそんなにないやつ。場所は元火山エリアだという。特に必要なかったので作ったはいいものの誰も管理してない階層だったそうな。うーむ、なぜ創ったし。
アスカを呼んで転移で王妃様とラケシス様をプールの横に移動させる。あ、水着持ってないんだっけ?
「主様は見ちゃダメ!」
「いや、さすがにぼくもそんな覗きみたいな真似はしないよ」
「ど、どうしてもって言うなら私が主様だけのファッションショーやってあげるから」
「ああ、うん、まあ気が向いたらね」
アリスにクギを刺されたが、もちろん覗くつもりなんてない。そりゃあまあ興味が無いと言えば嘘になるけど、見るのとぼくの人生が等価交換されそうだからやめておこう。「男なら責任を取れ」なんて真っ平御免だ。まあお二人とも特定の相手が居るから結婚迫られたりとかはないけど、伴侶の人からは剣とかギロチンの刃とかが飛んできそうだし。
水着に着替えてもらって水中ウォーキング。お二人の体重なら一時間軽めにウォーキングすればいちご大福一個分くらいのカロリーは消費出来るはず。
「歩くとキツくなるのですが、これだとそこまでキツくないですね」
「そうですね、水も気持ちいいですし、夏の間はここに籠りたいくらいです」
「ええ、その、このプールはそのうちお客を入れて営業したいと思います。それ以外にも色々と」
「それは聞き捨てなりませんね」
ラケシス様に詰められそうになりましたが、ぼくが詳しい話をしなかったのと、ダイエットが優先という事で有耶無耶に。
仕上げは食事療法。いや、そりゃあまあ食事は運動前にってのが良いと思うんですよ。でも、実際に食べるんじゃなくて「こういうのが良いですよ」って話。
まず間食の禁止。それから夜遅くの食事も禁止。この時点でぼくは脱落しました。ラケシス様、毎朝のおしるこは間食です。それは朝ごはんとはいいませんから。泣いてすがって来たので、「昼食か夕食を控えめにするなら」と助け舟を出しました。まあストレス抱えるよりはいいよね。
食べるものについても野菜や脂身の少ないお肉がいいと。特に食物繊維なんだけど。言っても分からないだろうから、豆類やじゃがいも、それに葉物野菜などを食べるといいとアドバイス。メイドさんたちが頑張って聞いてた。ラケシス様も王妃様もふーん、て感じ。
「あとは筋トレですかね」
「筋トレ?」
「さっきの運動の軽いヤツです」
「さっきのは無理だけど軽いヤツなら」
ちなみにぼくは腕立て伏せでダメでした。腹筋は身体を起こせませんでした。きっと今でも起こせないでしょう。プランクは十秒もたなくて、ヒップリフトはおしりが上がらなかった。それでもぼくがやることじゃないから好きに言える。「とりあえずやれる事からやってみたらいいです」みたいに言っといた。
歩美さんにはDPでスポーツジム的な施設をプールの近くに作ってもらった。更衣室もね!




