第百六十九話:突然のいちご大福に心が踊る
ちょっといちご大福が食べたくなったので。
エイクスュルニルが手を掲げると草原の奥の方に長いスロープの様なものができた。
「さあ、駆け上がってみるのだよ」
ロボーが二、三匹の部下を引き連れて走って行ってしばらくして戻ってきた。
「確かに森の中に続いている。しかも少し離れたところのようだ」
帰ってきたロボーからはそんな言葉を聞けた。つまり、全く関係ないところに出せるって事?
「出口を出せるのはこのダンジョンの支配域だけなのだよ。ゆっくりと広げてはいるのだが、なかなかに難しいのだよ」
「そこに入ってる生き物からはDP回収出来ないの?」
「ダンジョンを実際に作らんと無理なのだよ」
ダンジョンの中に入るからこそDPが貰えるみたいな感じらしい。てことは入口をぼくの家のそばに出してくれたらスムーズに行き来出来るのでは? あ、いや、ぼく自身は行かないけど。
「ダンジョン化するのにどうしても届かない場所もあるのだよ。そっちには領域が広がっていかぬので何故かと思っていたのだが、なるほどなのだよ」
どうやらぼくの家の近くはダンジョン化の影響を受けないらしい。そりゃあまあぼくの「引きこもり」スキルの効果範囲だろうからね。外からの干渉だなんて引きこもりに一番必要無いものじゃないか!
という事でしばらくロボーたちにここで暮らして貰えばそのうちDPも貯まるだろう。なんならここに獲物を追い込んでから狩ればロボーたちは餌が手に入るし、ダンジョンはDPが多く入るし一石二鳥だね。
それじゃあぼくたちはこの辺で。え? 街まで案内して欲しい? うーん、まあ確かにどっちかの街には行く必要あるかもなあ。それじゃあ比較的平和な王国の方にしますか。
街まで案内するのはアルタイルとエイクスュルニル、あとピーター。こちらのメンバーはアリス、アイン、アカネ。アスカはお留守番。というか非常時のお使い担当。
レッドメットは行きたがったけど問題を起こすことが火を見るよりも明らかだったので全員一致で却下した。セイバートゥースも行きたがったけど、ダンジョンの用心棒的なのをお願いした。万一に備えてだ。
出来れば歩美さんも連れて行きたかったけど、外に慣れてない人にいきなりは厳しいのでそのうちアニマルズの誰かに連れてきて貰えば良いかな。ぼくは面倒だから嫌だ。
という訳で王国にインする。ぼくらが前に出ると王城から色々飛んできそうなので動物たちに頑張ってもらう。
「どこから来た?」
「そんな事は関係ないのだよ」
「何のために来た?」
「将来に向けての偵察だ」
このやり取りで怪しむなという方が無理だ。衛兵たちの間に緊張が走る。
「失礼します、衛兵の皆様。どうかこちらに」
「おおっ、あなたは」
「ご存知いただけて光栄です。彼らは私共の関係者でして。通していただいても?」
「ええ、もちろんですとも。ただ、王城にはお報せする事になりますが」
「致し方ありません。甘味処にそのまま向かいますのでその様にお願いします」
あー、ジョーカー切っちゃった。いやまああんな受け応えされて揉め事になる方が困る。それに多分直ぐに会えると思うんだよ。
街の中に入り、通りを歩くと大所帯だからか皆がぼくらを見ている。いや、これはあれだ。女性はアリス、アインというスレンダーで高身長のツートップ。勿論客観的には美人だ。ぼくがそう創ったからね。
男性はアルタイルの厳しげだけどイケメンに、メガネな優男イケメンのエイクス、ショタ枠のピーターとこちらも選り取りみどりだ。ぼく? 当然ながら空気ですが何か?
「街中というのは意外に視線が集まるものですな。これは我々が先程問題を起こしたからですかな?」
「あ、いえ、多分それは関係ないかと」
そうこうしてると甘味処に着いた。行列はそこまで長くないがそこそこに並んでいる。まあぼくらは並ばないんだけど。
「おい、抜かすな! 並べよ!」
「そうよそうよ、順番は守りなさいよ!」
横をすり抜けて行こうとしたら捕まってしまった。
「ただいま戻り……あれ? オーナーじゃないですか」
そこにたまたま戻ってきたポーリーがぼくを見つけてくれた。
「あ、ポーリーだったよね。ええと、この人たちにちょっと捕まっちゃって」
「こっちから来るなんて珍しいですね」
「あ、うん、この人たちに城下を案内しようかと。甘味は出さなくていいから」
「そうですか。あ、オーナー。なんか他に餡子使ったお菓子ないですか?」
餡子を使ったお菓子ねえ……あ、大福あるからいちご大福とか? ちょっと安直かなあ。
「いちご大福!? なんですか、それ、詳しく!」
それからアスカからいちごをぼくの畑から取ってきてもらった。年中いちごが取れるというのも不思議なものだけど。あ、とりあえず出来たら歩美さんにも味見して貰いたいからアニマルズの皆さんも待ってて。




