第百六十五話:彼を知り己を知れば百戦殆からず
顔尻じゃないです。
そうして出来上がったパーティ料理。唐揚げ、ミートボール、おにぎり、玉子焼き、ウインナー、ポテトサラダ……運動会かな?
「すごい、運動会の、お弁当だ」
どうやら歩美さんも同じような感想を抱いたらしい。まあパーティ料理だからね。
「じゃあいただきま……」
「うおおー、なんだこりゃ、うめえ、うめえぞ! ほら、お前らも食べてみ、ぼぎゅっ!?」
「やかましい。ご主人様の食べる邪魔をするな。我々は食べ物など無くても大丈夫だろうが」
歩美さんが手を出そうとしたらレッドメットがあれやこれやと食い散らかしまくって、それをセイバートゥースが制した。しかし、食べ物食べなくてもいいのはパペットと同じなのな。
「この子たち、その、魔力、だけで、大丈夫、みたいで、私、DPで、自分のだけ、出てたん、です」
あー、まあ、このサイズの生き物が普通に飲み食いしなきゃだとしたらかなりコスト掛かるよね。なんか魔獣とかじゃなくて神獣?とかいうやつらしい。普通はフェンリルとかドラゴンとかフェニックスとかそういうんじゃないかなと思うけど。
「ええと、この子たち?にモンスターを獲って来て貰えば良かったんじゃない?」
「そんな、事したら、人が、来た時に、討伐、されちゃう」
「いや、多分こいつら普通の人間だと束になっても敵わないくらいだと思うよ?」
「え? そうなんですか? 剣をかざして稲妻集めたり、心に小宇宙抱き締めたり、獅子の知識に勇気が宿ったりしないんですか?」
「……この世界の人間は普通の人間が多いよ。そりゃあ魔法とかもあるんだけど」
しかし、なんかここだけ流暢だったな。それに、なんかラインナップが、ね。いや、ここでルネッサンス情熱とか蝶々サンバとか言われても一層困るんだけど。
「じゃあ、この子たち、が、危ない目、に、会うことは、ないん、ですね」
「あー、うん。危ない目に会うかもしれないけど、余裕で切り抜けると思うよ。アリス、どう?」
「私一人では勝てなくても主様は渡しません!」
「いや、何を言ってるんだ?」
「知ってますよ! あの乳デカお化けが主様を狙ってるんですよね!」
おまえは何を言っているんだ? いや、そもそも話聞いていたのか? ぼくはこの子たち?の実力的に大丈夫だよなって話をしてるんだが。
「乳デカお化けってのはうちのご主人様の事か? あぁん?!」
喧嘩っ早そうなレッドメットが突っかかってきた。
「おいバカやめるのだよ、ご主人様も向こうの主様とやらも困っているのだよ」
「エイクスは腹立たねえのかよ! ご主人様がバカにされたんだぞ!?」
「それでお前がブチ切れてこの者たちを排除したらご主人様はどうなるのだ?」
「どうなるって、そりゃあ、おめえ……」
「わかったんなら黙っているのだよ。すまないのだよ。うちのバカがご迷惑を掛けたのだよ」
エイクスが丁寧に頭を下げてくる。ぼくもあわせて頭を下げる。
「いや、こちらの方こそ歩美さんを侮辱する様な物言いを許してしまい、申し訳なかった」
「主様、相手を庇うの!?」
「アリス、いい加減にしろ。そんな事ならお前を家から出せなくなる」
「そんな……ごめんなさい主様」
「謝る相手が違う」
「はい…………その、ごめんなさい、歩美さん」
アリスが渋々という感じで謝った。いやまあなんでムカついたのかは分からんけど、少なくともぼくは彼女とどうにかなろうとか考えたこともないし、彼女にしてもそうだろう。程よく腐っていらっしゃる様だし。
「あ、いいですいいです。私も、その、気にして、ませんから」
「よし、じゃあアリス。改めて聞くよ。戦力把握。この動物たちはどう? 強い?」
「一対一ならまず負けないよ。でも、私一人であのクマとトラの相手は出来ない。まず負けちゃうと思う」
「アスカは?」
「クマだけなら楽勝。トラと組まれると無理。アリス姉様と組めばクマとトラ、シカまでなら勝てる。どの組み合わせでもワシが入ると絶対無理」
なるほど。ワシ……アルタイルが入ると無理なのかな。という事はアルタイルが強い……あ、いや、相性的なものなのか? もしくは戦術指揮的な適性?
「私はワシの人にも勝てるよ。ワシとクマならまあ苦戦するくらい。でもトラとクマが揃うと無理。止めきれない」
「という事らしいです。あ、ちなみにアリス一人で一軍壊滅出来るくらいには強いですよ」
「ほ、ほえ〜」
さっきからレッドメットがこめかみの辺りをヒクヒクさせている。なんだかなあ。
「おい! お前ら、それじゃあオレサマが弱いみてぇじゃねえか!」
「弱いよね?」
「弱い」
「弱いな」
「バカなのだよ」
「弱いぞ」
ぼく、歩美さん、ピーター、そして当事者のレッドメットを除く全員が「弱い」と断じた。ちょっと可哀想かもしれない。
「てめぇら、俺のどこが弱いってんだ!」




