第百六十二話:それは不思議な出会いなの
私は二期が好きです。
みんなで飛び込んでエレベーターに乗り込む。これが上に移動して絶対的な運命の黙示録な曲が流れた日には行く先は決闘場なんだろうけど。薔薇の花嫁? 要らない要らない。
エレベーターは普通に下に向かって進んでいる。途中てな誰か乗り込んでくるのかな、とか身構えたけど、止まることなくドンドン下に進んでいる。
「他には誰も居ないの?」
「仲間には招集掛けたから別のエレベーターで向かっている。これは俺専用なんだよ」
どうやら他の階層からは別のエレベーターが稼働してるらしい。なんでも呼ばれた時にエレベーターが各階停止みたいにならないように、なんだと。うん、現代人の魂を持った人のようだ。いや、ぼくは殆ど出掛けないから多分そうなんだろうなくらいのものだけど。
「さあ、着いたぜ。すまねえがご主人様を頼む」
「分かりました。全力を尽くします」
アンヌが堂々と答えて止まったエレベーターの外に出ると、何体かの動物が居た。大きい熊、大きい鹿、大きい鷲である。
「おい、セイバートゥース、こいつらか?」
「レッドメット、そんな言い方はよせ。ご主人様が望んで来てもらった客人だぞ」
「だけどよう、ご主人様に危害を加えるかもしれねえじゃねえか」
「そんな人なら帰ろうとしたりせん。安心しろ」
「むう、セイバートゥースがそう言うならまあ」
どうやら大きい熊がレッドメットって名前らしい。直訳すると赤い兜……ああ、なるほど。お客様の中に熊犬はいらっしゃいませんか?
「レッドメットは相変わらず勢いだけなのだな。私はエイクスュルニルなのである。発音しづらいだろうからエイクスと呼ぶのである」
名前的には北欧っぽいけどそんなの居たっけ? いや、確かによく分からんのとか多いだろうけど。
「我々はご主人様の側付きの使徒でな。私が統括のアルタイルだ。よろしく頼む」
どうやらこの鷲がトップらしい。鷲なのに一人称はワシじゃなくて私なんだな。いや、それはどうでもいいか。レッドメットとかが「よろしくクマー」とか言い出したら別の意味で怖いわ。
「ではこちらに。ご主人様がお待ちです」
セイバートゥースに案内されて奥へと進む。前と後ろに二体ずつ位置取られてる。まあ警戒するのは仕方ないよね。やっぱり帰りたいなあ。
などと思っていたら小さな扉に着いた。何となく物々しいこの空間にあるなんだかファンシーなアイテム。ま、まさか!
「では開けるぞ」
「まっ、待って、まだ心の準備がっ」
扉を問答無用で開けられると、そこにはどてらを着込んでコタツに入ってるなんというかだらしなさそうな、ついでにおっぱいもだらしなさそうな女性がいた。
そう、女性である。髪は黒髪。ボサボサに伸びており、散髪する人は居なかったのかと突っ込みたいくらいだ。いや、平安時代から転移して来たならその可能性も……って銃知ってんだからそんな訳無かったわ!
格好はどてらになんか学校のジャージみたいなのを着ている。外に行く用の服などでは絶対にない。まあこの世界でどこに行くのかというのはあるんだが、見たところ全然出歩く気配は無い。
顔は……まあ、整ってる方なのかもしれない。太っては無い。むしろガリガリだ。メガネが少しずり落ちようとしてるくらいには顔の肉が削れてる。
「……あ、あうっ」
か細い蚊の鳴くような声を女の子は発した。いや、果たして女の子なのかどうかも分からない。年齢不詳だ。女性の歳は分かりにくい。シワとかは見当たらないから五十や六十とかではないだろう。いって三十後半かな。
「やだ、なに、これ、お化け? 生きてる人間、居ない、よ?」
ボソボソそんな事を言ってる。ぼくの事が見破られたらしい。
「あ、あの、この身体は分身体でして」
「なんだと、俺たちを騙したのか!?」
あ、レッドメットさんがちょっと激昂した。まあ騙した気はなくてもそう取られるかも。
「まて、レッドメット。俺が確認しなかったのが悪かったんだ。で、本体はどこに?」
「自宅でこいつを操作してる」
「ここに来て貰うのは?」
「そ、それはちょっと勘弁して欲しい」
出歩きたくない、出歩きたくない、ましてやこんなジャングルだかどう○つの森だか分からないところなんて来たくない。
「あ、いえ、その、私のわがまま、なんで、いいです。ごめんね、みんな」
「ご主人様は悪くない。落ち着いてください」
エイクスが何とか宥めようとしていた。そして女の子はぼく達に向かって話し出した。
「あの、その、私、その、洞穴中歩美って、いいます。その、いわゆる、ダンジョンマスターってやつ、です。不束者ですが、よろしくお願いしま、す」
嫁入りかな? いや、嫁入りでなくても不束者ですがなんて言う人はいるだろう。早とちりしちゃダメだ。特にアリスは早とちりするなよ。




