第十六話:燃えない貴族は森の中
その後、レオンの行方はようとして知れず。
ブランとロボーが貴族と騎士を睨みつけている(ように見える)。そして騎士たちはガタガタ震え、レオンはそれでも家の方を見ながら怒りを顕にしていた。
「おい、今なら間に合うぞ。俺たちを放せ!」
「い、いや、放したらまた攻撃してくるじゃないですか?」
「当たり前だ! この家は俺のモノだ!」
尚もワーワーと喚き続けるレオン。ぼくは心底疲れた。
「相手してられない。ロボー、どうする?」
「我らに任せてくれるのか?」
「実際に被害にあったのはブランさんだろ?」
「それもそうだが……ところでなんで妻はさん付けなのに我は呼び捨てなのだ?」
「さあ、気にしないで持って行って良いよ!」
どっちも歯向かってきたら怖いっちゃ怖いけど、今はアリスやアインも居るし何よりぼくはうちの中だ。対人は怖いけど力任せの獣ならなんとでもなる。まあ、その獣の方が人間より話が通じるのが変なところなんだけど。
「ま、待て、ケダモノども。俺をどうするつもりだ!?」
「このまま森の奥の方に捨ててくる。もちろん縄は解かん。運が良ければ助かるだろう」
「ま、待て、ケダモノども。もし俺たちを、いや、俺だけで構わん。解放してくれるなら貴様らを飼ってやろう。どうだ?」
「俺たち」を「俺だけ」って言った辺りから周りの騎士たちが騒ぎ始めた。そりゃ捨て駒にされようとしたらそうなるやろ。
「部下をあっさり切り捨てる奴に飼われたいとでも思うのか?」
「くっ、ケダモノの癖に!」
「心配するな。森の奥に着いたら縄は解いてやろう。運が良ければ助かるだろうさ」
そのまま加えられて森の奥へと消えていったロボー。ブランさんはこっちに残ってる。まだ何かあるのかな?
「あの、主人を止めてくださってありがとうございます」
「ブランさんは復讐とか考えなかったの?」
「復讐出来たとしてもその先に待ってるのは大規模討伐でしょうから」
まあ人海戦術で来られたらかなりまずいよねえ。ロボーの場合は戦力差とか考えないで突っ込みそうだし。
それから三時間ほどしてロボーが戻ってきた。
「それで奴らはどうなった?」
「レオン以外の騎士の縄を解いてやったら全員でレオンをボコボコにしていたぞ。それはもう愉快だった」
あー、まあレオン一人で助かろうとしてたもんな。そりゃ誰もついて行かんわ。
「それから騎士たちがボロ雑巾になったレオンを遺して街の方角へと去っていたぞ」
「ええ、じゃあ討伐隊とか組まれたりしないかな?」
「その心配はないと思います、ご主人様」
横からアインが口を挟んできた。いやまあぼくも分かってるのよ? ほら、レオンっていう主君をボコった以上は領主に顔を合わせられない。かと言って森で生きていけない。なら街に戻ってひっそりと暮らすかそのまま街を出て別のところでやり直すだろう。でもロボーは獣だから理解してないかなって。
「全く、あのもの達が街に帰ったところで大っぴらに出来んことは獣の我でも分かるぞ」
「ふふっ、あなた、心配のあまり頭が回っていらっしゃらなかったのよ、きっと。ありがたいじゃないですか」
「ご主人様、そんなにこいつらの事を……」
ちがうちがーう! 噛み砕いて説明したかった、というか気づかせてやりたかっただけでそういう気持ちは全く全然……いや、少しはあったかな。
「まあ、これからは冒険者とかと鉢合わせしないように森の奥の方で暮らすんだな」
「それよりももっといい方法があります」
「アイン?」
「二頭を番犬としてここで飼うんですよ」
はあ? いやいや、家に入らないし。それにこんなデカい犬、どんだけ食費が掛かると思ってんだ!
「我らの食い扶持は自分で稼ぐ。なんならお裾分けしてやってもいい」
ふむ、狩猟を任せられるならアリスには畑仕事をやらせられる。それはいいかもしれない。
よし、わかった。試用期間は三ヶ月。給料というか報酬は据え置きの獲れ高払い。それで良ければお前らは今日からうちの犬だ。
「一応我らはオオカミなのだが」
「いいよいいよ。あ、犬小屋だと居づらいだろうから家を拡張しよう」
と庭の空いた部分に犬小屋作成で小さな小屋を建てる。スキル的には犬小屋作成なんだがその実際は人が住めるクオリティの離れである。引きこもってんのにペットの世話が出来るのかって話もあるが、動物を愛でるのに引きこもりは関係ない。逆に動物セラピーみたいな療法もあるんだから問題ないのだ。
「おお、ここが我らの城」
「雨風が凌げるのはありがたいわ」
出入口は犬が開け閉めしやすい様に自動ドアである。また、頑丈さもぼくの家と同じくらいだから多分ゾウが踏んでも大丈夫。というかゾウとか居るのかね?
それからまた一週間ほどして嵐の運び手の面々がまた姿を現した。今度はどんな厄介事持ってきたんだ?




