第百五十九話:だんじょんあたっく
ゴブリンはスタッフがこんがり焼き焦がしました。
昔のえらい人は言いました。巨漢を処するのに身体の末端を攻めるのは基本中の基本だと。アリスは今それを実践している。
最初に折ったのは左腕。腕ひしぎ十字固めでそのままポッキリ。いや、折れるのかよって思ったよ。体重軽ければ普通に立ち上がられて終わりなんだが。あ、アリスはパペットだから軽いはず。だよな?
左腕を抑えて蹲っているオーガの右の膝に蹴りを叩き込む。再びオーガが吠えた。いや、哭いたと言った方がいいのかもしれない。そのまま地面を転がり回る。
左足首に踏みつけ。いや、だからパペットだから体重がね。あれ? なんか足が地面にめり込んでますけど!? おかしいな、あんな機能つけたっけ?
「あれは体内重力操作ですね」
「知ってるのかフォルテ?」
「はい、かつて女神様に聞いた事があります」
なんというか女神様、そういうのは事前に説明してくれると助かります。というか、ぼくはパペットマスターのソフトのことについてあまり知らされてないような気がするんですよね。
「アリスちゃんは自分の体重を限りなく重くしたり、軽くしたり出来るんですよ。体重を軽くして回避したり、攻撃の瞬間だけ重くして威力を強くしたり」
「そんな機能あったの?」
「アリスちやんの方向性がかくとうタイプだったので本人に説明してつけさせてもらいました」
「ぼくには説明なかったけど?」
「………………てへっ(ぺろっ)」
こいつ、忘れてたな! というか今更報告されても困るけど、他にも報告してないことあるんじゃないのか?
「えーと? どれを報告したのかすら覚えてないんですよね」
ぶっちゃけると殆ど報告されてないと思う。特にパペット関係に関しては。いや、家の機能についてもぼくが関与してないところでどうなってるのかとかわからないからなあ。
そんなやり取りをしている間もアリスの攻撃は続いていた。残った右腕を背中側に折り畳んで手も使えなくした。これでオーガは両腕両足をもぎ取られたという訳だ。
「まっ、待ってくれ!」
「……何?」
「アンタみたいな強えやつは初めてだ。な、なあ、アンタワシらのボスになってくれんか?」
「ボス?」
「そうだ。この森、いや、森の外の世界ですらワシたちが支配するんじゃよ。そうなれば好き勝手出来るぞ」
「私がボスねえ。じゃあ主様は大ボスって事? なんかそれはそれでいいなあ」
おいおい、アリスが傾き掛けている。ううん、ぼくは身体が痛くて動きづらい。いや、戦闘が出来そうもないくらいで逃げるくらいはできるのだ。
「はあ? あんなひ弱な人間のガキなんぞしるかよ。でもまあ、アンタが奴隷にしたいってんなら手伝うぜ?」
どうやらオーガはアリスの地雷を踏んだ様だ。いや、確かに森の掟、自然界の理だと、所詮この世は弱肉強食。強けれは食われるのみ。あ、焼肉定食も美味しいよね、そこそこに。
「はあ? 今なんつった?」
地雷が爆発して怒りのボルテージが限界突破したのか、顔面にアリスの蹴りが叩き込まれた。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
鼻先を抑えてのたうち回るオーガ。いや、さっきからのたうち回ってばかりだな!
「お前、ごときに、主様の、偉大さが、わかって、たまるか!」
一音節事に蹴りを見舞っていくアリス。もうやめてあげて、多分オーガのヒットポイントはゼロだと思うよ!
アリスがぼくの静止を受け入れたのでオーガ退治はある程度目処がついた。あとは冒険者の人達で出来るだろう。よし、ぼくは惰眠を貪るぞ!
「主様、まだ仕事終わってなくないですか」
あー、まあ、あとは報告して終わり程度だから問題ないよね。
「違います、ほら、主様、あれをご覧下さい」
アリスが指さした先にあるのは薄暗い洞窟。あれ? こんな洞窟あったっけ? ゴブリンたちが自分たちで作ったのだろうか?
「行きましょう、主様。暗い中で二人っきり。うふふ、うふふふふふ」
いや、ちゃんとインフラビジョンも低光量補正も搭載してるんだけど。これは夜中に活動する時に便利だからで覗きとかに使うつもりは毛頭ない。無いからね?
ともあれ、洞窟の中を進む。アリス、アスカ、アンヌがついてきている。アリスは二人の妹に「邪魔だ」と言ってしまいたいのを我慢しているらしい。なお、その二人の妹はアリスを見ながらニマニマしている。
「この洞窟は外となんか違うな」
「ご主人様、多分、ダンジョン。魔素が変」
「ダンジョンかあ」
思えばこの世界に来てダンジョンなんて初めてである。初めてのお使い、いや、御使いによるダンジョン探索。ううむ、だがこのダンジョンは問題かな?
「何が問題なんですか?」
「ダンジョンなのに探索者が見当たらないんだ」
「ええと、オーガが食べてしまったのでは?」
アリスはあっさり倒したけど、他の一般人にとってはかなりの脅威となるだろう。それを見越してダンジョンの入口に陣取ってオーガが人間を狩っていたのかも。




