第百五十三話:知られざる過去、その名は「鬼哭」!
まあいつかは出そうかと思ってた昼行灯の本性。
MISSION:逃ゲ出シタ皇帝ヲ拘束セヨ
という訳で皇帝陛下を探し出す事に。しかし、地の利は敵にある。恐らくだがまだ子どもの時分より街を駆け回っていたに違いないのだ。
こういう時は闇雲に探しても仕方ない。まずは情報の集まる場所に向かう。冒険者ギルドだ。ギルドの看板娘らしき受付嬢に案内される。絡んでくる人物はここでは居ないようだ。
「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか? 登録ですか?」
「あ、いえ、その、人探しを依頼したいと思いまして」
「人探し? 特徴を書きますのでどの様な方か教えていただけませんか?」
「はい、ええと、とても偉そうで尊大でわがままで美味いものに目がなくて威圧的」
「ず、随分と凄まじい方なんですね」
「まあそうですね。仕事じゃなければ関わりたくは無いですね」
「分かりました。お名前は?」
「ええと、ライハルトだったっけな」
その名前を聞いて受付嬢が怪訝な顔をした。
「あの、すみません、つかぬ事をお伺いしますが、もしや貴方様はマモォール様ですか?」
「え? あ、まあ、そうですね」
「しょ、少々お待ちくださいっ!」
受付嬢が上の階にすっ飛んで行った。トイレかな? あ、いや、構造上トイレを二階に作るのはかなり手間だろう。ぼくは作ったけど。
少し待っていると、銀髪の女の人を連れて降りてきた。え? 選手交代? もしかしてぼくが臭かったかな? いや、お風呂はちゃんと週に一度は入ってる。前入ったのだって……いつだったかな?
「お待たせしました、マモォール様。私、この冒険者ギルドの副ギルド長を務めておりますサラサールと申します」
礼儀正しく頭を下げてきた。いや、そんな事されてもぼくとしては困るんですけど。アリスもアインもドヤ顔するのやめなさい。
「ここでは何ですからどうぞ、私の部屋へ」
階段を昇って奥の部屋に通された。さすがにトイレじゃなかったようだ。中に入ると、テーブルの上に書類が何枚も束で置いてあった。
「これは……」
「改めまして、副ギルド長のサラサールです。この度は御足労いただき感謝します、御使い様」
あの場にいたという話は聞いていない。これは二重スパイとかスパイアンドスパイとか特製スパイスで心も身体も滾らせてるの?
「すみません。私は精霊使いでして、この子たちが教会であった出来事を教えてくれたのです」
なんと、スパイは精霊さんでしたか。そういやうちにも女神の分身体でポテチ食って寝てる精霊が居たなあ。
「あの、マモォール様、この子たちが何やら一緒にするなと怒っているのですが、何かあったのでしょうか?」
あ、まあそりゃ一緒にされるのは嫌だよね。いやいや一緒にしたつもりはなかったんだよ。大違いだなって話で。
「あ、機嫌直してくれました。何があったんでしょうか?」
「そこは本人の名誉の為に追及しないでください」
「はい、分かりました。それでマモォール様はこのギルドに何の御用で? なんなら冒険者ランクをあげるとかそういう感じですか?」
「あ、いえ、その、依頼をしたくて」
「ええと、人探し、というか皇帝陛下を探しにでしたよね」
「あー、やっぱり分かっちゃいますか?」
どうやらぼかしたつもりだったけど、皇帝陛下ってのは早々にバレてたみたい。
「もしかして皇帝陛下はどこにいるのか分かりますか?」
「はい、街を抜け出して森の方に移動してますね。もしかして森の中に入るつもりでしょうか?」
は? 森の中? いやいや、あの森は入ったら出る事の出来ない樹海とかそういう話じゃなかったっけ? いや、実際はそんな事ないんだけど。ぼくの家もあるし……まさか!
「あの、皇帝陛下はお一人ですか?」
「いえ、女性の軍人さんらしき人物が一緒ですね。かなりの使い手だと思います」
なるほど。護衛を雇ったという訳ではなく、お忍びで部下を連れて行った感じですかね。それならば家に着く可能性もないことも無い。
いやいや、ヒルダさんから皇帝陛下を連れ戻してってお願いされてるんだから。というか聖国との色々な案件が煮詰まっちゃうから!
「ありがとうございます。ちょっとぼくたちも皇帝陛下を探しに森の方へ向かおうと思います」
「危険ですよ!? 一定ランク以下の人間は森に入るのを認められません!」
「あー、その、皇帝陛下は大丈夫なんですか?」
「恐らく一緒に居る女性軍人が優秀なので問題ないでしょう。あの、「鬼哭」のアヤ様ですから」
え? 「鬼哭」のアヤ? ふうん、帝国軍人にアヤさんって他にもいたんだ。同じ名前なんて紛らわしいよね。よし、ぼくの家に来る方のアヤさんは「飢酷」のアヤと呼んであげよう。
「ご存知ないですか? セクハラしてきた上官と部隊員を一人で血の海に沈めたアヤ・トーリエ様です。確か今は大尉になられたとか」
あれ? ファミリーネームまで同じ?




