第百四十六話:涙を流さない。パペットだからマシンだから。ダラッタ
デリバリーカレーの時におじさんに連れ込まれそうになった女の子です。
アスカが部屋に光球を撃ちあげると部屋の中が昼間のように照らされた。そこには黒ずくめの男が数人と騎士、そしてワカープロ。
「な、なんですかあなたたちは! 孤児院に無断侵入ですか!?」
「いや、それあなたのセリフですか? そこのいかにも怪しい黒ずくめに言ってください」
「この者たちは良いのです。私が許可を出しましたから」
「そうですか。ではレナさんを起こして確認してみましょうか。レナさんならそろそろ起きてくるハズ……おや、起きてきませんね。なんででしょうね」
「貴様……」
突然現れたぼくらを見て悔しそうに歯噛みしているワカープロ。まあ当然だよね。この現場見られたんじゃ司祭としての地位もどうかなっちゃうもんね。
「やれ」
短くそう言い捨てるとワカープロは部屋を飛び出した。どこに行こうというのかね? とか思ってたら黒ずくめが飛びかかってきた。
「アリス!」
「主様、ここは私に任せて」
「いや、お前はワカープロ追ってくれ」
「ええー、なんで!?」
「お前のスピードなら追い付けるだろ。あと、アスカはここで黒ずくめの処理だ」
「ううー、主様は?」
「動きたくないからここに居る」
「酷い!」
酷いと言われても戦闘能力皆無のぼくが行ったところでどうにもならんだろう。だからここに居るのだ。レナさんや子どもたちの事も気になるし。
「死ね!」
「嫌。〈障壁〉」
アスカが黒ずくめたちの攻撃をシャットアウトする。水も漏らさぬ防御体制だ。
「ぐっ、ならば人質を連れて来い!」
奥の部屋に行って子どもたちを確保しようとする。そうはさせるか!
「〈風の牢獄〉」
アスカの呪文で部屋から出ようとした奴らが見えない壁に阻まれる。よし、このまま捕らえれば
「ううーん、なんの騒ぎなの?」
って女の子来ちゃった! 薬を使ってたんじゃなかったのか? おいおい、とんだポンコツだぞ、こいつら。いや、やったのは黒ずくめじゃなくて司祭のお付きのやつなんだろうけど。
「しめた! こっちに来い!」
「えっ? な、なんなの? どちら様なの?」
「へへ、こいつの命が惜しかったらそいつに魔法を解かせろ。そして抵抗するな」
ぐっ、これは困った。これでは攻撃出来ないぞ。
「問題ありません」
っておい! アスカ!
「なんでしょう、ご主人様?」
「あの捕らえられている女の子が見えないのか?」
「見えます。個体名ミラ。ちょっとおませな女の子です」
なんでそんな事を知ってるんだ? いや、少しの間でも一緒に居たからか。
「だからそのミラが人質になってんだぞ?」
「問題ありません。ご主人様も今名前を知った程度ですからそこまで執着はしてないと推測します」
いや、執着とかはしてないよ。だって孤児院の子どもに手を出すわけじゃないんだから。純粋な労働力としてそして少しは同情心からやらせてるだけだ。
「いや、そういう事じゃなくて子どもが人質になってるんだぞ?」
「私の最優先事象はご主人様の安全です。孤児院の子どもとは比較になりません」
そうだ、こいつはパペットなんだよな。人間的な情緒なんて求めてはいけないんだ。となれば……
「アスカ、その女の子が傷付くのは無しだ」
「了解。ご主人様の命令を最優先します」
それまで呆然としていた黒ずくめの男がアスカに攻撃の意思が無いと分かると途端に元気になったようだ。
「へ、へへっ。そうだろうそうだろう。女の子は見捨てられないよなあ。辛いよなあ、正義の味方はよ!」
「いや、別に正義の味方という訳ではない。その子に傷付けられるのは困るが」
「お兄ちゃん、私が好きなの?」
「……あ、いや、好きか嫌いかで言うと好きな方ではあるんだけど」
「仕方ないの。助けてくれたらお嫁さんになってあげるの! こう見えてあんざんがた?だから安心するの!」
何が安心なんだかよく分からない。というか安産型も何もその片鱗すら伺い知れない体型なんだが。
「おい、ガキ、ちょっと黙れ」
「結婚したら丘の上に白い家を建てて白い犬を飼うの。お世話は私がしてあげるのよ。料理は勉強中だけど、ちゃんと野菜は刻めるのよ」
「このガキ……黙れって言ってるだろうが!」
「! 今なの!」
ミラちゃんを殴る為か捕まえていた男が手を振りかぶった。身体を支えているのは腕一本だ。
「アカネ!」
「ギョイ」
天井からフレームだけのアカネが落ちてきて男の首筋に刃物を突き立てた。ミラはその腕から逃れて前へつんのめって転ぶ。
「グギャ!?」
「アスカ!」
「了解。制圧します」
「ミラの保護が先だ!」
「再度了解。〈障壁〉」
ミラの周りに障壁が張られた。これでミラちゃんは大丈夫だろう。さあ、反撃開始だ!




