第百四十三話:脳みそピンクに染めてみよう
なお、アンヌは見るだけ派です。
闇ギルドの幹部たちを縛りあげてヒルダさんを呼んだ。現場に着くなり肩を震わせて下を向いていた。それはそうだ。長らく帝国を蝕んでいたであろう闇ギルドを壊滅させたのだ。喜びも一入……
「なんで、なんで仕事が次から次へと増えるんですか……」
あ、いや、喜びじゃなくてやるせなさに震えていたらしい。いや、ごめんなさい。でもこれは帝国の膿を出す為に必要なことだったんだよ!
「あ、いえ、さすがに護様たちのせいではない事は理解してます。理解してますが、これは、あまりにも……」
「部下とかは居ないんですか?」
「優秀な官僚はこの間の粛清で各方面に散り散りになってしまって。人手不足、人材不足にも程があるんですよ。肝心の皇帝陛下は直ぐにサボってビール飲もうとするし」
段々と愚痴大会になって来そうだ。かなり疲れてそうだから何とかしてあげたい。ふむ、これはあれの出番かな。
「ヒルダさん、ちょっとこちらへ」
「なんだすか? あのさっきも言いましたけど、忙しいんですよ」
アンヌを例の隠れ家の所に待機させてある。そしてセッティングはさて貰ったのはマッサージチェア。電気はぼくの家からこっそり延長コードを延ばしている。
「ヒルダ様、いらっしゃいませ」
「あれ? なんで? ここは隠れ家だったハズですが」
「ええまあ。少し快適にしようと思いまして」
「それにあの二人、レナさんとラナさんは?」
「お二人のことはご心配なく。ちゃんと保護していますから。それよりもこちらへ」
ヒルダさんをマッサージチェアに座らせる。そしてアンヌがヒルダさんを診察。
「いけませんね。ヒルダ様、眼精疲労が溜まっております。睡眠をきちんと取って目を酷使しないように」
「そんな事を言われても仕事がなかなか片付かなくて……」
「ですが、それで身体を壊しては余計に仕事が滞りますよ?」
「ううっ」
アンヌがたしなめるように言う。うん、お医者さんっぽい。
「では治療を開始します。〈誘眠〉」
アンヌが呪文を唱えると、そのままヒルダさんは寝てしまった。ろくな抵抗もしてないのは不意をつかれたからか、それとも相当に眠かったからか。
「では手術を開始します。メス」
「いや待て」
「なんでしょうチーフ」
「メスを使わないといけないのか?」
「え? いや、とりあえず開腹してみてから考えるというのも手ではないかと」
「開腹しなくても回復は出来るよな?」
「チーフ、ナイスジョーク」
ビシッと親指を立てるアンヌ。まったくこいつは。
「では改めて施術を開始します。まずは眼精疲労の回復用の目薬です。これはチーフ用に開発していたものだとか」
「ああ、まあ、ぼくも画面見ること多いから眼精疲労になりやすいよな」
「ゲームの時間を制限したらきっと大丈夫かと」
「それだけは嫌だ」
今、リアルの事に時間を取られてただでさえゲームが出来ないのだ。これ以上、実際の生活時間は割きたくない。
「分かりました。後で目薬を挿してください。出来ないようでしたら膝枕致しますので」
「それくらいは出来るからヒルダさんを頼む」
「ちっ、分かりました。さて、それではネットスーパーで買ったホットアイマスク。これを少し時間を置いて装着します」
ホットアイマスク。なんかすごく気持ちいいらしい。でも目が腫れてる時は逆効果って聞いた。ぼくはアイスのアイマスクの方がひんやりしてて好きだなあ。
「そのまま二十分ほど待ってアイマスクを外したら食べ頃の女の人が出来上がりです。チーフ、どうぞお召し上がりください」
「やめんか! 聞かれたらどうするんだ!」
「私の睡眠魔法は完璧です。後二時間は起きませんよ。二時間あれば御休憩でいけますよね?」
どうもこのアンヌは頭がピンク色で出来ているようだ。医者はエロいというのは定説であったからデータ取り込みの時に混ざったんだろう。いや、もしかしたらお医者さんごっことかも混ざっていたのか?
「しないからな。で、ヒルダさんはどうなんだ?」
「ええ、このまま二時間ほど仮眠を取れば十分な睡眠になる様に眠りの深度を深めておきました」
なんだかんだ言って言われた事はちゃんとやるらしい。まあそうでないと作った甲斐も無いというものだ。
二時間後、目を醒ましたヒルダさんは「頭がなんだかスッキリしました! それに目もよく見えます!」などと頻りに感謝していた。あー、まあ、良かったよ。
闇ギルドの連中はもう宰相麾下の兵たちが連れて行ったとの事。まあ衛兵の信用度が下がってる分、仕方ないのかな。
それから暫くは何事もなく、奴らも動きを見せなかった。孤児院も平和。実行犯の闇ギルドの奴らが動けないんだから当然だろう。奴らは闇ギルドに任せっきりで確認もしてないのかもしれない。




