第十四話:貴族の横暴
喫茶店で書こうと思ったら正月なんで閉まってました。
「あの、アインさん、アリスさんが何かしたんですか?」
やつらは開口一番に言ってきた。ちなみに私の家に来てから一時間くらい経過してる。それまで何をしていたかと言うと、カレーを食っていたのだ。だから開口出来なかったという。
「ええ、そう考えてくれてもいいわ」
「やはり……いきなりヘルグリズリーどもが進路をこっちに変えたんで何かあったかと思ったんですよ。あの大群ですしもしかしたらって思って」
どうやら街には行ってなかったらしい、ロボーの言う通りか。アインに予め聞くように言っといた質問をぶつけさせる。
「この森に棲む白い獣をご存知ですか?」
「ああ、領主が冒険者の誰かから話を聞いて捕らえようとしたやつだろ?」
「あなた方が捕まえようとしたのでは?」
「さすがになあ。報酬は良かったがそこまで命知らずでも無いしなあ」
どうやら嵐の運び手とは穏便にいきそうだ。
「それならヘルグリズリーも暴走しなかったんじゃないですか?」
「はあ? なんで白の狼がヘルグリズリーの暴走に関わってくるんだ?」
「……いえ、その白いオオカミ強いんでしょう?」
「戦ったものはいませんがあの巨躯です。弱いとも思えません」
「実際に冒険者に死者は出てないと聞いています」
やはりブランさんは手加減をしてるようだ。ロボーが出て来てないという事はロボーの存在を知らないのか?
「あのう、白じゃなくて黒のオオカミのことは知ってます?」
「白いのと別に? いや、白いのだけだったはずだが」
やはりだ。ロボー出てたら多分死人とか出るよなあ。
「なので、お願いします、この小屋を拠点にしてヘルグリズリーの数を少しでも減らしたいんです。協力して貰えませんか?」
リックが額を擦り付ける様に頼んで来た。泊まらせるとぼくのプライベートがなあ。断るか。いや、もうちょい確認してみよう。
「ねえ、あなたたち、まさかとは思うけどその白いオオカミの捕縛命令も受けてきているの?」
「……はい。出来るだけでいい、と。飽くまで主目的は街の安全ですから」
こういう時、領主を説得して手を引かせたり、悪徳領主なら成敗したりするのがテンプレだが、ぼくにはなんの力もないしなあ。
「領主に伝えてください。白いオオカミを諦めるなら街に被害は出ない。でも白いオオカミを捕らえようとするなら街に被害が及ぶ、と」
「ううん、わかった。本来なら信じられないところだけど命の恩人だし、カレー美味かったし!アインさん美人だし」
「ちょっとトム!」
トムの太ももをリンが思いっきりつねっていた。そしてふんっと顔を背ける。なるほどな。こりゃトムは尻に敷かれるぞ。へい尻、今日もご機嫌だぜ。
そんなこんなで嵐の運び手は帰って行った。お土産にクマ肉をいくらか融通してあげた。あと、ボロボロになったクマ本体も。毛皮とか使い物にならないが二束三文なんで売りそびれてしまったやつだ。
帰るのに大変だからリアカーを外に出してやった。新品だからな。びっくりしていた。運ぶとしたらリックだし、ちょっとあの量を運ばせるのは可哀想だからね。さて、これで吉報が来るといいなあ。
また一週間が経った。今度は白銀の鎧を着た騎士様を何人も連れて立派な身なりの人物が現れた。誰だろう、と思っていると、その男の隣に居る騎士が大声で喋り始めた。
「我々はゴンドール王国、ビエイラ所属のルクリス伯爵家に仕える者! そしてこちらにいらっしゃるのがルクリス伯爵家次期当主、レオン・ルクリス様だ!」
あの立派な身なりの人物はどうやら貴族の子弟らしい。でも年齢的には三十過ぎてそうなんだけどなんでまだ次期当主止まりなんだろうね。
「この家はレオン・ルクリス様が、ルクリス伯爵家の名のもとに接収することが決まった。大人しく空け渡せ!」
は? はああああ?! なんだよそれ。こっちの都合あからさまに無視でそっちの都合を押し付けてくるのか。これが貴族かあ。いやまたこのまま引っ込んでたら大丈夫なんだろうけど。
「ちょいやー!」
掛け声と共に騎士たちが剣を構えて斬りかかってきた。でもそんなへっぽこな武器と腕じゃねえ。家に弾かれてビクともしないし、傷すらつかない。
「レオン様、ダメです!」
「くそう!」
「おっ、レオン様、こっち、こっちです!」
別のところにいた騎士数名がレオンを呼びに来た様だ。何かあったか……あっ、あっちは畑じゃないか! カメラを畑に回そう。
現場からお伝えします。レオンの騎士たちがぼくの畑を荒らしてます。ほくほく顔で戦利品とばかりに食い物を取っていく。なんて奴らだ。これはもう許せないな。
ぼくはスピーカーのスイッチをオンにした。人と喋るのなんて久しぶりだけど!ぼくの領域を荒らす奴らは許せない! あー、あー、テステス、マイクてテス!




