第百三十八話:お前なんか片手で十分だ
左手は添えるだけ
子どもたちを放置して先に進む。上に上がる階段があった。アスカに下へ行けないように結界を張ってもらう。人質取られても面倒だからね。あ、井戸からの道にも結界は張られている。つまり、地下牢だけ隔離してる感じ。
階段上がると手下たちのたまり場だったらしく、カードゲームらしきものをしてる奴が三人と酒を飲んで騒いでるヤツらが五人居た。
「なっ!? なんだ、てめぇら!」
一人が大声を上げたのでアリスがそいつを気絶させた。安心せい、峰打ちじゃ。いや、まあ拳だったけど。
酒飲んでたヤツらの一人が酒瓶で殴ってきた。まだ中に酒が入ってる。殴れば酒で目くらましになるし、割れた瓶が刺突武器になるという訳だ。まあ普通の敵だったらなんだけど。
アリスは酒瓶を持った手を掴んで握りつぶすと、酒瓶を受け止めて奥のテーブルにいるカードゲームしてるヤツらに投げつけた。カードゲームしてるヤツらの一人にぶち当たってノックアウト。これでカードゲーム組も参戦してきた。
「全部片付けていい?」
「お姉様のお好きに」
アリスは弓から放たれた様に男たちにつっこんで行くと、あっという間に四人を叩きのめした。そしてその最後の一人を掴むとまた奥のテーブルに投げつけたのだった。
奥のテーブルの残り二人は飛んでくる仲間の身体を間一髪で避けて転がるのが精一杯だった様だ。アリスは身体を投擲すると同時に走り出し、転がってるうちの一人を気絶させた。残るは起きようとしている一人だけ。
「まだやる?」
「ぐっ、こうなったらボスたちに報告するしか」
「今から? どうするつもり?」
「こうするんだよ!」
男は懐から笛のようなものを出した。笛を吹くと上の方から何かが降ってくる感覚があった。部屋が壊れるのも構わずに突っ込んでくる。
ドカン、と音がして二人の男が降ってきた。まあ正確には二人と一匹だが。一人は黒いフードを被った黒ずくめの男。もう一人は赤い髪の男で羽の生えたデカいライオンの様な生き物と一緒だ。
「なんだ、お前らやられちまったのか?」
「俺たちの手を煩わせるんじゃねえよ」
「ひっ、す、すみません!」
一通り叱ったところで満足したらしい。アスカの方に向き直った。
「おお、このチビ女、おっぱいでけえじゃねえか。なあ、ズー、こいつ俺にくれよ」
「俺はどっちでも構わんぞ」
「ラッキー。じゃあそういう事でよろしく」
どうやらマンティコア連れの方がアスカに向かうらしい。残りの一人がアリスだ。
「おい、デクノボウ、この女を引き裂け! ああ、直ぐには殺すなよ。たっぷり楽しんでからだ!」
マンティコアが了解とでも言うように短く吼えた。
「どうやら仲間も始めたようだ。俺はズー。見ての通りの暗殺者だ。短い付き合いだろうがよろしく頼む」
そう言って握手を求めるかのように手を前に差し出して来た。きらん、と手が光った感じがした。アリスは何かを空中で掴む。
「毒針? 随分とセコいやり方なのね」
「効率的、と言って欲しいね。正々堂々戦う騎士様とは違うんだ。勝てばいいのさ。いや、勝てなくても目的が達成出来ればいいんだよ」
マンティコアに襲われているアスカは平然としている。いや、動じてないのか無表情なのかは分からないけど、マンティコアの攻撃は巧みに避けている。それなりに動けてるなあ。あ、いや、風を操って避けてるのか。
「ちょこまかと……くたばれ!」
マンティコアの攻撃に合わせてムチで攻撃してくるもう一人の……名前なんだっけ? あ、聞いてねえや。ともかくそいつのムチ攻撃は普通に結界で弾いてるみたい。
「なんで当たらねえんだよ!?」
「ゴァァァァァァァ」
マンティコアは咆哮をした後、これまたムチの様な攻撃を繰り広げてくる。しっぽだ。蛇のようなしっぽがしなるムチの様に飛んでくる。先程の男のムチ攻撃とはスピードもそして恐らく威力も違いすぎる。
「アスカちゃん、スイッチ!」
アリスが叫ぶ。アスカはアリスの方に走っていって対峙する相手を代わった。
「代わっても無駄だ! この高速のムチからは逃れられない!」
「いや、遅くて欠伸が出るけど?」
アリスは男の振るうムチを掴んで引っ張った。そこにマンティコアのしっぽムチが飛んでくる。べチン、と子気味いい音がして男が倒れる。テイマーらしき男が気絶してもマンティコアは戦いをやめないらしい。
「仕方ないなあ。すぐ終わらせるからね」
アリスは空中から突進してきたマンティコアの体当たり攻撃を片手で受け止めてそのまま地面に叩きつけた。
「よいしょ」
そのまま首の骨を折って動かなくなるまで抑えつける。一瞬の出来事だった。いや、確かにパワーは凄く強くしたけどここまで強いの? ほら、相手のズーさんだっけ? 呆然としてるぞ?




