第百三十三話:解放感満載! 解き放たれた獣。
貴族の粛清はある程度終わりましたが兵士はまだまだ後回しなのです。
ヒルダさんがわざわざこんな末端の牢屋に来る事なんてそうそうないんだろうな。ほら、だって宰相様だよ? きっと初めて来て戸惑ってるに
「はあ、身分を隠した陛下以外をお迎えにあがるとは思ってもみませんでした」
なんか思わずごめんなさいって謝りたくなった。ぼくが悪い訳じゃないんだけどさ。
「お手数掛けてすいません」
「ああ、いえ、護様が悪い訳ではありませんので。では、ここから出しますね」
「あ、あの、すいません。この子も出してあげて貰えませんか?」
「申し訳ありませんが我が帝国の臣民に対する権利は護様にはございません」
「この子が人身売買の件で何かを知ってそうなんですが?」
分かりやすくヒルダさんの顔色が変わった。どうやら孤児院の件を含めて人身売買組織が動いてるのは間違いないらしい。
「詳しく話を聞く必要がありそうですね。では、護様とそっちの小さい子を牢から出してあげてください」
「え? しかし、そんな事をしては」
「私が誰だか忘れたのですか?」
そんな風にガチャガチャやってると、「何の騒ぎだ!」と怒鳴りつけるような声が上からした。そして降りてきたのは衛兵たち。確かぼくを捕まえた人だな。
「あ、た、隊長! その、この人たちを牢から出せと」
「ああん? 出来るわけ無いだろうが! 犯罪者を野に解き放てと? 馬鹿な事を言うんじゃない。まあ、貰うものさえ貰えれば話しは違ってくるがな」
隊長はニヤリと笑う。袖の下がこんなに横行してるのはなんだかなって感じだ。帝国にはポイ捨て禁止罪とかあるから現場にこんなバカがいると運用にも問題が出てくるだろう。
「あなたはいつもこんな事を?」
「おお、綺麗な姉ちゃんだな。なんならお前の身体で払ってもらっても構わんぞ?」
ヒルダさん、客観的に見たら美人だよね。まあ皇帝陛下とセットなんで苦労人としてしか見えないんだけど。
「今すぐこのバカを拘束しなさい!」
「な、何しやがる! 上官に対する不敬罪だぞ!?」
「この者たちは近衛ですのであなたとは指示系統が違います」
「は? 近衛? 一体どういう……」
「宰相閣下、捕縛完了しました!」
その一言で隊長さんは状況を察したらしい。
「ヒルデガルド宰相閣下!?」
「おや、名前くらいは知っていたようで。そうです、私が」
「変なおじさん」
「……護様?」
「ごめんなさい」
いや、だって言いたくなったんだもん。それは仕方ないよね? なんなら踊っちゃうよ?
「さて、理解出来たところで上官に対する不敬罪でしたかね? では、宰相に楯突いたらどれくらいの不敬になるのか楽しみですね」
ニコニコしながら隊長さんに話し掛ける。生きた心地しないんだろうな。
「では、護様とそっちの子を改めて牢から出してください」
「お、おい、護、俺たちは?」
「いや、あの、お気の毒かと思いますが、泥棒とか暴動はやっちゃいけないと思うんで」
まあそれ言ったら殺人未遂もいけないんだけど、人身売買が絡んでるとなれば話は別だからな。という訳でぼくとトペは宰相閣下に連れられてある建物に連れて行かれた。
「ここでお待ちください」
「ここは?」
「あなた方が牢から出されたのを知ったら相手が警戒するかもしれませんので。すいません、なるべく早く出歩けるようにしますのでここでお待ちいただけますか?」
「あの、ありがとうございます。その、孤児院は、レナ姉さんは」
「大丈夫。ちゃんと近衛に守らせますし、しっかりした護衛も居ますから」
アリスの事だろう。問題解決まで孤児院に居ろって言ってるからな。そうでも言わないと牢屋の鉄格子捻じ曲げてまで助けに来ちゃうからなあ。
「あの、その、なんかバタバタしてたけど、ありがとう」
ヒルダさんが去るとトペが頭を下げてきた。
「君は孤児院の子なのかい?」
「そうだ、いや、そうです。元は孤児院に居ました」
見るからにまだ孤児院に通ってそうな身長なんだけど、身体的な特徴、女性、という事を加味すると成人してる可能性もある。
「あの、何もしませんのでフードを取ってもらっても?」
「……わかった」
フードを取ると金髪美少女がそこに現れた。いや、ところどころ汚れて髪はくすんだ色になってるけど、磨けば光る感じだ。……磨くのはアインに任せようかな。
「トペってのも偽名だ。レナ姉さんに会えば分かっちまうからな。ラナだ」
「ぼくは護だよ。偽名とかは使ってない」
「なあ、あんた、宰相閣下とどんな関係なんだ? 宰相閣下のオトコってやつか?」
「それはヒルダさんの前では口にしない方が良いと思うな」
きっと発狂したヒルダさんにくびりころされるバッドエンドが浮かんでくるに違いない。ただでさえ皇帝陛下のお守りで精神的被害を被ってるので更に負担をかけるのはしのびない。さて、それじゃあ今後の事を考えていきましょう。




