第百二十八話:あの鳥はまだ上手く飛べないけど
私は夏よりも家族よりも冬が好きです。
タマゴサンドである。まあタマゴは茹でたやつを切り刻んだやつとマヨネーズを混ぜてパンに塗り込んで挟むだけ。バージョンによっては輪切りにしたゆで卵が入ってる事もある。なんというかタマゴを楽しむ為にはこれ以上ないくらいの料理だ。
というかあまりタマゴ料理はポピュラーではない。その理由は家畜である鳥が居ないこと。うちで食べてるやつ? ああ、その辺のロックバードの巣から取ってきてるんだよ。どうやら無精卵を出産する種類らしい。ニワトリだけじゃなくてインコも産むことがあるって聞いて鳥にも色々あるんだなと思ったわけだ。
「しかしタマゴを調達するのが一苦労ですね。頻繁に取りに行ってもらう訳にもいきませんね」
家畜としてのニワトリを何とかして普及させたいところ。いや、この辺りでやってなくても他の場所ではやってるところがあるのかもしれない。
「護様、護様はどうやって卵を手に入れていらっしゃるのですか?」
「ああ、その、うちの周りに飛んでるロックバードから」
「ああ、そういえば一応秘境のご出身でしたね」
あの森はそこまで秘境でもないよ! 多分。
「ロックバード。それは納得です。しかし困りましたね。私どもでは卵を用意するのが困難になってしまいました」
「今から飼育させるってのは出来ないんですか?」
「そのニワトリ?というのが何処にいるのか、そもそも居るのかすらわかりません」
「でも護様の故郷に居たのならどこかしらには居るはずですものね」
ううっ、それも分かりませんとしか言い様がない。ニワトリいるのかなぁ?
「作れるで」
アミタに聞いてみたら作れるそうだ。バイオ工学かな?
「ちゃうちゃう。ヤケイを家畜化すればええんよ」
ヤケイがやけいに綺麗だね、みたいな? あ、面白くない。そうですか。じゃなくてヤケイってなんだ?
「ニワトリの元になった鳥やねえ」
あー、なんか遠い昔に家畜化された鳥の仲間か。いや、だからね、この世界にそのヤケイ?とかいうやつが居るのかすら分からないんだけど。よし、困った時の世界創造責任者だ。直接聞くのもアレだからフォルテに聞くか。
「あー、ヤケイ? いや、ヤケイは居ないけど、それの原種ならいるよ」
「そうなのか?」
「っていつも焼き鳥とかで使ってるじゃない」
は? ええと、つまりそれは、ロックバードが野鶏の原種って事?
「そうよ。まあ参考にしたのがキジだからひと手間ふた手間要るんだけど」
なるほど。道理でロックバードの焼き鳥を食べた時に違和感を感じなかった訳だよ。
「つまり、ロックバードを家畜化すればタマゴは問題ない、と」
「そうね。まずは飛べないようにしないといけないわね」
飛べるロックバードを飛べないようにする。これはなかなか難題の様だ。
「簡単じゃない。翼をぶった斬ればいいのよ」
「鬼かお前は!」
「大丈夫。その程度で死んだりはしないわよ」
「そうじゃなくて、それだと逃げ出さないために足を切断するみたいなものだろ?」
「何か問題でもあるの?」
そうか、こいつは神様の一部というか分身体だから考え方が人間と違うんだな。やれやれだぜ。
「鳥はなんで飛ぶと思う?」
「その方が早いからだろ」
「違うわよ。強敵から身を護ったり、餌を見つけるためよ」
なるほど。確かに弱肉強食サバイバルなこの環境では空を飛べるというのはアドバンテージだよな。アリスもアスカも構わず狩ってくるけど。
「つまり、何が言いたいかと言うと、餌と安全さえ保証してやれば家畜に出来るって事よ!」
「なるほどなあ。さすが女神様だ」
「えっへん」
「それでもそれをどうやって鳥に伝えるんだ?」
「ええと……」
あ、言葉に詰まった。考えてなかったな。確かにそんなことが出来れば問題はないんだろうけど。いや、実際体験させてやれば何羽かは定着するかもしれないけど、それには年単位の時間がかかるはず。
「ご主人様、任せて」
アスカが殺さないでロックバードを狩って来た。暴れてるから苦しそうだ。首を持つのはやめてあげなさい。もしくはいっそ一思いに絞めなさい
「〈弱体化〉」
アスカが胸の辺りに魔法を掛けた。するとロックバードは手を離しても飛んで逃げたりせずに走り回っている。
「どう?」
「何をしたんだ?」
「胸の筋肉を弱体化して飛べなくした。なんなら永続化出来る」
おいおい、そんなの普通にやられたらどうしようもないぞ?
「接触して相手がそんなに動かないのが条件」
なるほど。戦闘には使えないんだな。でもなんで胸なんだ? 普通に翼の筋肉を弱めたらいいんじゃないのか?
「鳥が飛ぶ時に使うのは胸筋。翼の筋肉は羽ばたきには不要」
そ、そうだよね。も、も、もちろん知っていたさ。知っていたとも!




