第百二十七話:マヨラー
生卵は至高
マヨネーズの作り方は卵黄と塩、酢、植物油。異世界転生ものの定番だから色んなので見た。普通に作ってるんだけどそもそも普通の卵は殺菌されてないんだよね。
サルモネラ菌。サーモンについてるからサルモネラ菌なのかと思ったら発見した細菌学者の名前らしい。サーモンは菌じゃなくてアニサキス。寄生虫である。
で、現代地球世界でも生卵を食べられる国というのは極めて少ない。アメリカでさえ生では食べない。だからすき焼きを忌避するアメリカ人も一定数いるらしい。食べたら美味しいって言うから単なる食わず嫌いなんだろう。いや、細菌に対する警戒だね。
日本の場合、卵の内外で菌がつかないように生育段階での予防と出荷時の殺菌が徹底してるんだと。それでもゼロにはならないんだから恐ろしいよね。
話を戻すと、科学の進んだ現代日本でさえ完璧に殺菌出来ないのに、そもそも殺菌何それ美味しいの?な感じのこのファンタジー世界で生卵を食べさせる訳にはいかないのですよ。
そこをこの世界の貴族様に現代地球の事を伝えずに伝えるのは難しいよね。なので卵を生で食べると病気になる可能性がある、という事と、うちではそれを何とかする技術を持ってるから何とかなったという事を掻い摘んで説明した。
「そうですか。不可能なのですか。あの、その殺菌でしたっけ? それを出来るようになる魔法などは無いのでしょうか?」
「そんな便利な魔法なんてある訳」
「ある」
その時、アスカがアインを伴って現れた。どうやらウスターソースの野菜炒めが出来上がった様だ。
「あるのですか!?」
「浄化という魔法」
「なるほど! 毒物を除去する魔法。それならば!」
ええと、アスカ? なんか面倒そうな話になりそうなんだけど?
「それは仕方ない。マヨネーズ様のため。もっとあまねく世界に広まるべき」
こいつ、パペットの癖にマヨラーだと!? いやマヨラーと言うよりもマヨネーズ教徒と言った方が良いのかもしれない。
「私もその方がいいと思います」
アインまで?
「だって今マヨネーズ作ってるのは私なんですよ? 時間取られるんですよ」
「いや、ネットスーパーで買えよ」
「この世界で何とか出来るものはなるべく何とかするというのがですね」
そんな事言ったっけ? いやまあ確かに世界のバランス崩さない為にそっちの方が良いとか聞いた事ある設定だけど。いや、それなら毎日の様に取り寄せてるカップ麺とかどうよ?
「さあ、護様、浄化の魔法を使える者はこの屋敷にも居りますので作り方を伝授してください!」
貴族の御屋敷には急な来客に対応出来るように浄化の魔法が使える人を召し抱えてるらしい。浄化の魔法で何をするかって? そりゃあまあ情事の後始末……あ、来客が連続した時に素早く部屋を片付けるんですね。なるほど。
はあ、仕方ない。それならマヨネーズの作り方を説明しましょう。はい、卵黄を塩と酢を入れてかき混ぜます。そこに植物油を少しずつ垂らしながら更にかき混ぜます。ひたすら混ぜて白くなったら出来上がりです。酢と植物油が混ざって乳化現象が起こるんだよね。
ブレンダーがあれば三十秒で出来るけど人力だとそこそこ時間が掛かりそうなんだよね。さて、手が疲労で参るのが先か、マヨネーズが出来るのが先か。
「なるほど。攪拌ですね。風魔法を応用すればすぐ出来そうです」
……あ、はい。魔法があるんでしたね。そんな細かい魔法の使い方とか出来るんですか? 出力落とすだけだからそんなに難しくない? そうですか。
というか魔法があるなら直ぐに作れるんだね。ぼくはびっくりだよ! そんな事アインからは何にも聞いてな……え? アインは魔法が使えないから殺菌はアミタの殺菌器でやってもらって、攪拌はアミタのハンドミキサーを使ってるって?
あー、まあ、確かにアインは魔法使える様にはしてなかったな。いや、魔法使えるのアスカとアンヌとアカネだけだと思うの。アンヌとアカネはジャンル限定だし。アインにも使える様になってもらった方がいいかな?
あ、一応アリスも魔法が使えるというか常時身体強化出来る感じだから改めて魔法を使うって感じではないんだよね。
さて、そんなこんなでマヨネーズが出来たんで野菜につけて食べます。あ、野菜炒めは野菜炒めで美味しくいただきました。
「野菜の味がなんというか沢山食べたくなるような味に変わりましたね。これなら野菜の苦手な子どもでも野菜食べられるのでは?」
確かに野菜は嫌いだけどマヨネーズは好きって子どもはいるよね。きゅうりとかそのままは嫌いだけどマヨネーズついたら食べられるとか。ようし、マヨネーズと卵があるならあれだ。タマゴサンドだ。
「ご主人様がやるとはみ出すのでどいてください」
アインの言うことは正しいけど言い方ってものがあるんじゃないかな?




