第百二十四話:アヤさんをお迎え
仕事したくないでござる。
王城にいきなり転移しても戸惑われるだけなので甘味処に扉を使って移動。奥から出て来たらみんなが頑張って働いていた。お客さんもまばらながら来ているようだ。
「あ、店長さん。お疲れ様です」
「お疲れ様、キャサリン。どうやらお客さんが来てくれだしたみたいだね」
「そうなんですよほらこの間ギルド長が来た時があったじゃないですかあの時に周りの街の人たちもしっかり見てたみたいであのギルド長って嫌われてたらしいんですけどこの度の公爵令嬢への無礼とかで余罪追及されてギルド追い出されたらしいですよあとギルドの職員たちはヴィオレッタさんの紹介で仕事終わったあとに来てくれてますなんならポーリーが届けに行ってたりします別にデリバリーするなとかは言われてないですし人も来てないから暇になるのでこれくらいはいいですよねそれから……」
「ストップ、ストップ、ストーップ!」
「え? なんですか?」
「ちょっと待って。ノンブレスでどれだけ喋るつもり?」
「えーさすがに私も呼吸くらいはしてますよ他の人にはあまり息吸ってないみたいに言われるんですけどこれにはコツがあって喋ってる最中に息を吸うんですよ一日三分の練習で一ヶ月で出来るようになりますから店長もどうですか?今ならバインダー方式のテキストで習得も簡単これであなたも息継ぎなしでおしゃべり出来」
「もういい、もういいから! ええと、ハンナ呼んで」
「はあい」
キャサリンに喋らせちゃダメ。うん、あの調子でお客さんにも接客してるのかな? というか面接の時はそこまででもなかったよね。それなりには喋ってたけど単なるアピールとか緊張で舌が回っちゃったとかなのかなと思ってたけど逆なの?
「お呼びですか、店長?」
「あ、うん。ちょっと色々留守中の事を聞きたくて」
「キャサリンから聞いたのでは?」
「あー、うん。複数人から聞きたいから。それでキャサリンはお客さんにもあんな風に?」
「いえ、お客様には普通に接客してますよ。きちんと案内とかしてて饒舌ではありますけど嫌では無い程度です」
つまり、ぼくとの会話は仕事と思ってないからあんなに饒舌なのか。それと接客中に喋れない反動なのかもしれない。
「それで報告ですが、冒険者ギルドの人間含めてお客様は増えてきました。そこまで忙しくはないですけど、ちょくちょくは人が来てます。それでも暇ではあるのでポーリーが来れない冒険者ギルドの職員のためにデリバリーしてます。これは宣伝も兼ねてますので冒険者ギルド内ではかなり浸透してきました」
なるほど、冒険者ギルドが客としてついてくれるのは嬉しい。まあ嵐の運び手たちの宣伝もあるかもしれないけど。
「冒険者ギルドの方はそんな感じで。他には?」
「近所の人たちには広まってきつつあります。こちらは羊羹よりかは大判焼きやあんぱんですね。おはぎはある程度の人しか買いません」
「おしるこはどうだい?」
「ヴィオレッタさんと公爵令嬢様は食べますがその二人が居るとテーブルが占拠されますので他の人は食べにくいんでは無いかと」
うん、普通は一杯食べて終わりだけど、あの二人は一杯と言わずいっぱい食べるからね。まあ主力商品はあんぱんだからおしるこはそこまで売れなくても構わないけど。
「チヨちゃんは大丈夫?」
「お客様に接客してもらったり、製造の手伝いをしてもらったりしますが優秀ですよ。指名まで入るくらいですから」
指名ってこの店はそんな店じゃないぞ。その客に文句を言う必要があるかな。
「誰が指名してるの?」
「公爵令嬢様です」
ラケシスさん。あの、この店はあなたの欲望を叶えるための店ではないんですよ。きちんと仕事しましょう。
「おまたせしました。おしるこのおかわりです」
「ありがとうチヨちゃん。すぐ食べちゃうからまたおかわりよろしくね」
「うひょー、やっぱりおしるこは美味しいですね!」
「でしょう? しかし、あなたここに居ていいの? 皇帝陛下は帰ったんでしょう?」
「良いんですよ。ほら、帰っても仕事ないですし」
噂をすればなんとやら。ラケシスさんがそこにいた。そしておあつらえ向きに一緒にいる人物はアヤさんだ。
「お二人とも仲良さげですね」
「あら護様。一杯いかがですか?」
「いや、ぼくはそこまで甘党では無いので。それよりアヤさん?」
「はんへふか?」
「……口の中のものは飲み込んでから返事してください」
「もぐもぐごくん。なんですか?」
「帝国に帰るようにとヒルダさんからお迎えの依頼が来ましたよ。帰りましょう」
「嫌だ嫌だ、ここでおしるこ食べるんだー!」
いやまあ確かにおしるこは帝国にはないですけどそんなに駄々こねることですかね? 仕事したくないのかもしれない。というかアヤさんって軍人じゃないの? 普通に上官反逆罪とかにならないのかな?




