第百二十三話:誰か忘れていませんか?
作者すら忘れていたという……
だが待って欲しい。そもそも婚約ですら本意ではないのだ。このまま放置しておけば立ち消えになるんならそっちの方が良くないか? いや、それだと孤児院の件が全く解決しないんだけど。
「どうやら気付かれた様ですね。まああとは知り合いの貴族に雇ってもらうとかありますよ」
「知り合いの貴族ですか?」
「ええ、アナスタシア様とか私とか」
ヒルダさんもそういえば貴族でしたね。まあ宰相なんだから当然か。子どもとか好きそうだもんな。
「子どもは好きですね。素直な子が。礼儀をわきまえない不躾なガキは嫌いですけど」
孤児院の子たちはレナさんが躾てるから多分不躾ではないと思いたい。だって全員が全員に個別で接した事ないし。それに接していても猫被ってたらわかんないよ。
しかし、貴族の御屋敷で働くことを子どもたちが選ぶだろうか? レナさんの借金の時も貴族のゴリ押しだったから印象的には最悪のはずだ。
いや待てよ? 皇帝陛下が布告をするまでの繋ぎで仕事を与えればいいんじゃないかな? それなら継続雇用でなくてもいいから何とかなりそうな気がする。
さて、では子どもが働いていても全然問題なさそうな仕事を考えるとしよう。大人に比べて子どもは体力もなく、頭もそこまで良くない。いや、あの孤児院は頭がいい方なんだろうけど。レナさんの教育の賜物だ。
直ぐに思いつくのはエロ方面なんだけど、そんな事はさせられない。いや、まずエロ方面が出てくること自体がぼくの限界なのかもしれない。ぼくはロリコンじゃないよ?
他にと言えば少年探偵団とかベーカーストリートイレギュラーズみたいな探偵助手。子どもという怪しまれなさと小回りの効きやすさで探偵をサポートする。惜しむらくは探偵役が居ないこと。ぼく? やるならやるでもいいけど、ぼくがやると安楽椅子探偵になるからね。
ええと、後はなんだろう。あんまり危ないことはやらせたくないな。これはぼくが孤児院の子たちに保護者的な気持ちを持ってる訳じゃなくて責任追及されるのが嫌だからだ。
ん? 待てよ? 保護者的な気持ちがないなら別に助けなくても良くない? いや、年長の子たちが心配のあまりカレー屋で働けなくなってしまうかもしれない。それはそこそこ困る。
あー、めんどくさい。そもそも子どもが働く必要なんてないじゃないか! そうだよ。その文句を言ってきているバカを何とかすればいいんだよ。なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだろう。
「アリス」
「なんですか主様?」
「問題解決まで孤児院で待機ね」
「えっ? 主様は?」
「ぼくは何が起こっても足手まといにしかならないから大人しくしとくよ」
「そんなあ……」
皇帝陛下が帰ってきて政務をしていることは貴族たちにも伝わってるはずなのできっとあと数日のうちに動きがあると思われる。なければそれはそれで良かったね、で終わる話だ。
という訳でアリスを孤児院に置いておく。ぼくの護衛は……そういえばアカネが居たな。そうだ、この際アカネのボディを作って……資金が足らないんだった。そうだよ、そう言えば今回の護衛の報酬貰ってないよ! よし、皇城行ってこよう。
「おや、護様。ついに決心がついたのですか? さあ、授爵の準備は出来てます。正装もありますよ」
「なんでそんなものが用意されているのかはともかくとして、今回の王国行きの報酬をいただきに」
「ですから授爵がですね」
「いや、爵位とか要らないんで現金でください」
ヒルダさんが渋い顔をする。ええと、もしかしてタダ働きさせるつもりだった?
「違います、ちがうのです。ですが、王国への旅は陛下の一存によるもので予算として計上出来ないんです」
「お忍びだから?」
「そうですね」
「じゃあポケットマネーでいいから払ってください」
「それもその、王国に行った時に陛下が散財したらしく、あまり手持ちのお金が無くてですね」
どうしてやろうあの皇帝陛下。まさかのタダ働きとは。お土産にビールまで出してやったのに。
「あ、そ、そうです。陛下の私的コレクションからなら色々持っていっても構いませんので。文句は言わせません。言わせるものですか!」
どうやらヒルダさんもかなり色々溜まっているらしい。そしてヒルダさんはぼくに向き直った。
「これは別件なんですが、お金は払いますので依頼を受けていただけないかと」
「え? まあ内容にもよりますけど。今アリス居ないですし」
「その、王国に置きっぱなしのアヤを連れ帰って貰えませんか?」
アヤさん? ……………………あっ! 忘れてた! そうだよ、誰か足りないなと思ったらアヤさんだよ! ていうかまだ王国に居るのかな?
「それは……そうですね。いや、その、転移して皇帝陛下とヒルダさんを連れ帰ったのはぼくらなんでアヤさんを連れ戻すのはアフターサービスでやらせていただきます」
うん。これは間違いなくぼくが悪い。アヤさんを放置しちゃいけないよね!




