第百二十二話:貴族への帰属の片道キップ
貴族になるかどうかは分かりません。
とりあえず、一杯だけならとビールを出してやる。プシュッと手馴れたように缶ビールを開けてごきゅごきゅと喉を鳴らして飲む。
「ぷはぁ、これだこれ。このパンチの効いた喉越しがたまらんのだ。よし、もう一杯!」
一杯だけって言ったじゃないですか、やだー。という事でヒルダさんにあげる。
「あの、私は別に美味しいと思わなかったんですけど。出来たら缶チューハイでしたっけ、あれの方が」
「いや、何言ってるんですか。皇帝陛下を働かせるためのエサにするんですよ」
「…………? ああっ! そう、そうですよね。ええ、分かってました。分かってましたとも!」
まあ本当に分かっていたかどうかを問うのは無粋というものなのでそこはスルーしよう。
「さあ、陛下。ビールが欲しければ帰って働いてください」
「仕方ないのう」
「では今回は急ぎますのでアスカの転移で戻りますね」
「おい、待て。こういうのは旅の情緒がだな」
「情緒もクソもありません。ちゃんと仕事してください」
という事でアスカに頼んで転移して貰った。いやあ、直ぐに帝国に来れるって便利よね。関所も無視だもん。森通ったら関所無いけど。
「じゃあ頑張って孤児院の件確認してください。ぼくは孤児院に行って子どもたちをどうするか確認して来ます」
執務室で書類の山に埋もれてる涙目の皇帝陛下を放り出してぼくらは孤児院に向かった。
「ああ、護様。どうだったでしょうか?」
「皇帝陛下は心当たりないみたいだったよ」
「またまた、本当に皇帝陛下にお会いしたみたいな事を」
「今は書類と格闘してますから来れませんがそのうち連れて来ますよ」
「嘘よね?」
まあ連れて来ても困るだけかな。双方共に。子どもたちとは真剣に遊びそうな気もするけど。
「しかし、直ぐには解決しないですから何とか稼げる仕事を探さないと」
「そうですね。あの、何か食べ物屋をもう一店舗出すとか」
「それができるなら最初からやってるんだよねえ」
しかも、飲食店だとそこまで沢山の年少者は雇えない。必要なのは戦力になる人である。ぶっちゃけ、孤児院の子どもたちはレナさんのおかげで多少は勉強も出来る。でも商店とかには奉公には出せない。だって信用がないもの。孤児院出身だとどうしてもね。
じゃあぼくが飲食店をやればいいというがそれもダメ。何故なら子どもたちだけでは料理が出来ないからだ。となるとどうしても大人が必要になる。ぼくのゴーレムでその辺出来たら良かったんだけど、そこまでの事は出来ない。やるなら奴隷だがまた生身の身体で奴隷商に行かなきゃいけない。嫌だ嫌だ。ぼくは外に出ないぞ!
となると何か内職の様な事をやらせるのがいいだろう。家内制手工業だ。いや、ぼくか道具を貸し出す問屋制家内工業かな? となると子どもたちの器用さがポイントになる。まあ何を作らせるのかとか考えてもないんだけど。
「器用な子はどのくらい居ますか?」
「そうねえ、四、五人人なら裁縫が得意な子が居るわ。料理が得意な子は二、三人ね」
「残りは?」
「どっちも苦手な子よ。身体を動かすのが好きな子や本を読むのが好きな子とか居るけど」
本を読むのが好きな子は今から頑張って育てれば官僚候補になりうるだろう。いや、官僚じゃなくても文化の方で何とかなるかもしれないし。
どっちにしても直ぐに仕事に結びつかない。これはどうしようか? なんか上手い手がないかなあ?
こんな事を自分で考えても限界があるからヒルダさんに相談しよう。忙しいのかもしれないけど、他に頼れる人がなあ。まあ王国に行けば甘味魔人な人が居るけど。今日もおしるこ食べてるんだろうな。
「直ぐに出来る解決策ならありますよ」
相談したらこれだよ。ほら、相談してよかった。さすがに頭がいいだけの事はある。
「それは一体どういう案なんですか?」
「ええ、実に簡単な話で。護様に帝国の貴族になってもらって、貴族家で下働きとして雇用すればいいのです」
……ええと、なんというか信じられないセリフが飛び出して来た気がしますのでわんもあぱーどん?
「ですから護様に貴族になって」
「あーあーあー、きーこーえーなーいー」
「勿論無理強いするつもりはありませんが、皇帝陛下が何時でも授爵できるようにと準備だけは出来ておりますので、伯爵くらいまででしたらノータイムですよ」
聞くんじゃなかった! というかなんでそんなことになってるんですか?
「それはアナスタシア様との婚約の話があったからです」
どういうこと?
「一応森の中のよく分からない家に嫁がせる訳にも対外的にはいきませんので、帝国の貴族に嫁ぐとなれば障害も少なくなりますから」
まあ、ぼくの家は森の中で国ですらないからね。それでも帝国とゴンドール王国くらいは認められるだろうけどそれだけじゃないしね。




