第百二十話:事件発生、事件は会議室では起きてません。
シスターっていいですよね(天使にラブソングをを観ながら)
店を開けてから一週間が経過した。客の入りはまずまず。冒険者ギルドでの噂が広まってそれなりに羊羹を買いに来ている。ついでにあんぱんも売れてる。ううむ、羊羹専門にした方が良かったのか?
「まあ仕方ないでしょう。羊羹がそんなに日持ちすると知っていれば我が国の軍需物資となったはずですから」
おしるこ食べながらラケシス様が言う。軍需物資ねえ。それでもどことも戦争してないから使う場面無くないですか?
「敵は人間ばかりとも限らないですもの」
ああ、確かにこの世界には魔物が居ましたね。魔物が一番巣食ってるのはぼくの家がある森なんですけど。多分また増えてんだろうなあ。最近はあまり積極的に狩ってないもの。家の周りのロックバード以外は。
「そろそろ家に帰りたいなあ」
というか本体は家だし、アインがぼくのご飯を作りに帰ってきては居るのでこのままでもそんなに困らないんですけど、一応この国の重鎮となる人物が目の前に居るのでそんな事を言ってみる。
「あの、この甘味処は……」
「え? もちろん続けますよ? というかここで辞めちゃったら働いてる人たちに迷惑じゃないですか。特にチヨちゃんとか」
「そうですよね、続けますよね。なら良いです」
どうやらお店の存続が大事らしい。ラケシス様らしいや。ぼくらがいなくなっても多分店は回せるだろう。どうしてもって時の為に呼び出しブザーを設置しとこう。これはアミタに作って貰ったもので、帝国のカレー屋や唐揚げ屋にも置いてある。アスカが居るから転移ですぐ行けるし、なんなら家を経由してもすぐだ。
おおっと、そういえばこの店にもぼくの家と扉で繋げとかなきゃいけないよね。庭の一部にそれ用の小屋を作ろう。立ち入り禁止で結界張っときゃ近付かないよね。
しかし、考えてみると二カ国で三店舗かあ。多国籍企業ってやつかな? こうなるとティリス国だっけか、そっちにも行くのもいいかもしれない。もちろんぼくは行かないよ? お土産だけ欲しいかなあ。
おっと、帝国から呼び出し? このコールサインはカレー屋だな。何かあったのか? とりあえず、ぼくらは留守にすると伝えてそのまま転移。例のゴーレムの部屋ですな。
「何かあったのか?」
「あ、オーナー。あのですね、実は孤児院の子どもたちなんですが」
迎えてくれたのはトーマスだった。孤児院の子どもたちがどうしたんだろう?
「年少の子どもたちがぼくたちにも出来る仕事はありませんかって」
「そんなことのために呼び出されたのか」
知らんがな。いや、子どもたちの気持ちはわかるけど、そんなのぼくらが解決する手段でもないじゃない。
「申し訳ありません。ですが、なんというか不憫で。私も一児の父ですから」
一児の父としては一緒に奴隷落ちした時点で失格のような気もするけどそこは黙っておいてあげよう。
「しかし、年少の子どもたちだと料理を運ばせる訳にも、作らせる訳にもいかないからなあ」
「そうなんです。ですから何かお知恵をお借りできないかと」
年少の子は普通に遊んでれば良いと思うんだけど、そういう訳にもいかないらしい。何かあったのかな? よし、レナさんを尋ねてみよう。
「主様、またあの女のハウスに行くんですか?」
「孤児院だ。別にあそこが家かどうかはわからないだろう」
「子どもの世話があるから孤児院に常駐してると言ってました」
そこまで知らんわ。
「孤児院の問題だから孤児院を見てやらんといかん。下手すると配達してる子たちまで巻き添えを食うかもしれないからなあ」
という事でアリスを連れて孤児院へ。孤児院に着くと前よりも建物が少しボロくなってる。何があったのかな?
「お邪魔するよ」
「あ、美味いもんくれたにーちゃん!」
「ダメなのよ、オーナーと呼ぶのよ」
「おーなー? おーせわになーりますってやつ?」
「そうね、間違ってないわ」
いや、間違ってるからな。まあこいつらに言っても仕方ないか。
「レナさんは居るかな?」
「なんだよ、シスターに結婚でも申し込みに来たのか?」
「シスターももう若くないんだから早く貰ってやれよ」
ませてんなあ、このクソガキども。
「あなたたち、何を騒いで……あ、護様」
「あ、どうもご無沙汰しております、レナさん」
「護様、私、私は……うわーん」
レナさんがぼくの胸の中に飛び込んで来た。アリスの顔が憤怒の色に彩られた。いや、これは嫉妬かな?
「落ち着いてください、何があったのか話していただけますか?」
こういう時に冷静さを失った方が負ける。こういう時の女性は強かなんだ。ぼくは知ってるんだ。冷静さを失った馬鹿どもがどんな結末に辿り着くかなんて。ぼくは屈しないぞ。まあ感触とか分身体なんで分からないんだけど。




