第十二話:お礼参り
本来の意味で
彼らが街に帰って一週間したら今度は四人で来た。増えた?
「家主様、ご無沙汰しております。お礼の品をお持ちしました」
一度上げてるからなあ。お礼の品を渡すだけならばそこまで乱暴な事はしないだろうし、されてもアリスが頑張るだろう。ぼくはこのまま二階に避難させて貰おう。
「これはようこそおいでくださいました」
アインに出迎えさせる。とりあえずブツだけ受け取って帰してくれ。
「まずはこれがお礼の金貨です」
おおっ、金貨! これはかなりな臨時収入になりそうだ。額によってはもう一体パペット作れるかもしれないし。
「そして、実は少しお願いがありまして……中に入れてもらっても?」
こ、と、わ、れ!
「許可が出ました。どうぞ」
出してねえよ! あー、もう。一階だけなら仕方ない。アリス、二階に上がらないように階段のところ見張ってて。
彼らはそのままテーブルのところに座った。一人増えたのはよりガッチリした男だった。
「俺の名前はリック。このパーティ、嵐の運び手のリーダーをやってる。盾役の重戦士だ」
おや、前は居なかった人が自己紹介を始めた。という事は前回はリーダー不在だったのか? それでテンパってここに逃げて来たと?
「あっ、お、おれはトム。剣士だ」
「私はエル。回復術師です」
「リンよ。魔術士をやってるわ」
ほかの三人も自己紹介を始めた。そうだね、君たちの名前も聞いてなかったもんね。
「お前ら、自己紹介もしてなかったのか」
「いや、あの時は相当混乱してて」
「やっぱりリックが居ないとダメですね」
いや、そういう話はここでしないで帰ってからやってくれるかな?
「それでお願い、とは?」
「ヘルグリズリーを一撃で倒したという武器を貸してほしい。武器なのか魔法なのか分からんが、魔法ならば使える方も一緒に来てもらいたい」
いや、さすがにあれを持ち出すのは無理よ? というかあれは家の防衛システムだもの。外して持ち運びとか出来るわけが無い。
「無理ですね。あれは持ち運べません。ここに来たものならば撃退も出来ますが」
「やはり無理ですか。持ち運べない、という事はあれは武器なのですな?」
「武器か魔法かと言われたら武器に分類されますね」
アインが上手く応対してくれてる。しかしヘルグリズリーねえ。今ならアリスでやって勝てる?
「倉庫にある対物ライフルを使っても良ければ」
あるのか。というか倉庫とかあったっけ? とか考えてたら地下室があって、そこが武器弾薬庫らしい。あぶねえな。
「どうしてヘルグリズリーが?」
「冬眠出来なかったヘルグリズリーが食べ物を求めて街にやってくるんだ。一通り暴れて物を食い散らかしたら帰って行くんだが、その度に甚大な被害が出ている」
冬眠出来なかった、という事は蓄える食べ物をとれなかったっていういわば負け組。そいつらが街を襲うのか。これは世知辛い。
「今回、森に入ったのもヘルグリズリーの巣を見つけて除去して被害が出ないようにするためだったんだが……失敗してしまった」
「このままだとまた被害が……」
こういうの、ぼくらの身には何の危険性もないけど、ヘルグリズリーは美味しいし、素材としても食用としても。
「アリス、機会があればまたヘルグリズリー狩っといて」
「かしこまりました」
それからしばらく話して嵐の運び手は帰った。ぼくは階下に降りる。
「さて、アリスには対物ライフルの実践チェックをやってもらいますか。アインは家事全般ね」
二人とも元気よく返事をした。それからもう一週間ほどして、森の空気が変わった。何やら唸りを上げてこっちに近付いて来るものが居た。
「ヘルグリズリーだろうか?」
「ヘルグリズリーと思われます」
「ヘルグリズリーですね」
三者三様の反応である。まあこっちに来たのはなんでか分からないけど、街の人よりも美味しく見えていたのかもしれない。
「よしアリス。ヘルグリズリーを狩るよ?」
「かしこまりました、ご主人様」
アリスが対物ライフルを持ち上げながら答えた。マッチョのアリスなら生身でもいけそうな気はするんだけど。
改めて部屋のモニターで見ていると、途中までまっすぐ進んでいた黒い塊がぼくらの家に急に方向転換していた。これは、この家に惹かれてる?
「どうやらここに来るようですね」
「何が狙いなのかは分からんがこっちに向かってるな」
アインとダラダラ喋っていると後ろに黒い毛並みの大型の犬が居た。ヘルグリズリーを前に従えて、やつはぼくらの家にまっすぐに向かってきた。
嫌な予感がするので何か無いかと通販を探す。これなんかどうだろうと注文すると、そのままストレージに増えたのを感じた。いつもニコニコ迅速丁寧な早さの配達ですね、通販さん?




