第百十七話:保存食に最適です
羊羹って日持ちするんですね。
リンさんとエルさんが帰った後は本当に誰も来なくて暇で暇で仕方なかった。店員たちの経験的にこれくらいのスタートが一番いいんじゃないかな。
閉店時間が来そうになってそろそろ片付けようとしてると、飛び込みで人が入って来た。
「いらっしゃいませ」
「はあ、まだ開いてるかい?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「そりゃよかった。仕事したあとだから間に合わないかと思ってたよ」
あー、もしかして仕事終わってから買いに来る人が居るのかな? という事は営業時間を見直した方がいいのかも。
「それは申し訳ありません。明日以降はもう少し開ける時間を遅くしますので」
「そうかい? それなら余裕を持って買いに来れるよ」
「どこでこのお店を知ったんですか?」
「私かい? 冒険者の友人でね、リンって言うんだが」
「ああ、リンさんですか。先程買いに来てましたよ」
「やっぱりかあ。この日の為にって仕事入れてないって言ってたから来るとは思ってたんだ」
どうやら嵐の運び手の皆さんは今日の開店の日の為に仕事をお休みしたらしい。まあ、それなりに稼いでるしね。ぼくらの護衛じゃないのかって? いや、もう目的は達成したから自由にしてもらってるんだよ。皇帝陛下はアヤさん、ヒルダさん揃って王城で賓客扱いなんだよね。いつ帝国に帰るんだろ?
「アタシはヴィオレッタ。こう見えて腕利きの冒険者だよ」
「責任者の護です」
「ああ、あんたが。聞いてるよ。色々美味いもの食わせてくれるそうじゃないか」
美味いものを食わせてるって言うか嵐の運び手の皆がたかりに来てるって言うか。来たらきたで食わせてるから言われても仕方ないのかもしれんが。今度からお金取ろうかな?
「で、この甘味処?とかいう店を出したっていうから試しにと思ってな。甘味って言うからには甘いもんなんだろ? こう見えて稼いでるから少々高くても構わんよ」
「いえ、そこまで高いものはそんなに無いですよ」
小豆も砂糖も元手ゼロだから捨て値で売っても利益出るんだよね。いや、従業員の給料があるか。人件費以外はそこまでコストはかかってない。だから一個あたりのお値段もそこまで高くない。あ、高級志向の商品もそのうち出そうと思ってるよ。
「この羊羹っていうのを食べてみたいな。これをくれないか」
「あ、はい、ありがとうございます。携行食としても便利ですよ」
「そうかい。それはありがたいね。どれ、今食べても?」
「ええ、構いませんよ。どうぞ」
おしるこスペースが空いてるからそこに座ってもらう。そんでもってパクリと食べ始めた。
「うおおおお!? な、なんだこりゃあ! 甘いし、エネルギーが湧いてくる。これはすごいな!」
感極まったように叫ばれた。他のお客さん居なかったからいいけど。びっくりしたわ!
「なあなあ、これは日持ちするのか?」
「未開封だと一年くらいですね」
餡子だけの羊羹なので日持ちはいいのだ。栗とか混ざってたらもっと持ちが悪いんだけど、餡子だけならこんなもん。
「一年……そりゃあすげえな。これ、冒険者の非常食としてすげえ優秀じゃねえか」
「あー、そうかもですね。良ければ宣伝してもらっても?」
「あいつらこれを言わなかったな。いや、リンのことだから気づいてねえかもしれねえ」
そういやリンさんからはそんな問いかけなかった気がする。
「これを冒険者ギルドに卸す事は出来るか?」
「ええと、一応うちの主力商品なんで卸しとかはやってないんですけど」
「そうだよなあ。よし、今ある羊羹全部くれ!」
「あ、はい。ええと、全部となるとかなりな重量ありますけど?」
「大丈夫だ。一応マジックバッグ持ってるからな。馬車一台分なら収納可能だ」
マジックバッグ! この世界に来てから初めて聞いた気がする。皇帝陛下とか持ってなかったもんな。高いのかな? いや、高いんだろうけど、そもそも皇帝は旅とか出ないだろうからそこまで必要ないのかも。
「そうですか。お買い上げありがとうございます」
「ああ、良い買いもん出来たよ。ありがとな」
「明日には補充しておきますので」
「そうか。それは助かる。またな」
そうしてヴィオレッタさんは去っていった。しかし、保存食かあ。日持ちする食べ物はそれなりにあるけど。そういやこの世界での保存食って干し肉なのかな?
誰か知ってる人とか募集してみたらポーリーさんが知ってた。自分の家の宿屋に冒険者がよく泊まってたらしい。まあそりゃそうか。
で、保存食なんだけど、塩漬けの肉や魚らしい。塩がそれなりに高価なのでそのまま干した肉ってのもあるらしい。当然ながら日持ちはそこまででもない。で、硬くて食べられないから水で戻したりするそうな。味は二の次で日持ちするのが大事なんだと。ううむ、これはかなり厳しそうだ。保存食、考えてみてもいいかな?




