百十六話:新装開店、宣伝はしていない。
まあスタートはこんなものでは無いですかね。
という訳でミルナ様にプリンのレシピを渡しておいた。対価として国に来た時に歓待するとか言われたけど、国に行くこととかあるんだろうか。いや、是非来て欲しいとか言われたのは言われたけど。
なお、この国でのプリンの対価は新しい店の権利って事で、貸店舗が自分の店舗になりました。いや、そこまで定着してやる気なかったし、失敗したら普通に帝国だけでいいやとか思ってたんだけど。
店舗の改装は急ピッチで行われた。ほら、雇う人が居るからね。あ、チヨちゃんは住むところがないからって仕方ないので宿屋への宿泊料金を負担してあげた。屋根があるところで寝られるって喜んでたのは不憫だったよ。
ぼくらが王城に拘留されてるからって王城に招く訳にもいかないからね。いや、ぼくらも宿屋でいいから王城から出たかったんだけど、王妃様もラケシス様も離してくれなくて。ラケシス様なんかは実家に帰ることもなしに王城に入り浸ってていいのかと思うよ。遅かれ早かれロイヤルファミリー入りするからってお部屋まで賜ってるそうなんで問題はなさそうなんだけど。
さて、そんなこんなで秋も深まってきたある日、甘味処の開店日を迎えた。店舗自体は前に出来てて、従業員研修とかしながら店の具合を確かめてたんだけど、皆さんしっかり頑張ってくれてた。
「さて、今日から開店ですが、特に宣伝とかもしてませんし、お客さんが来るかは分かりません。ですけど皆さんのお給料は保証しますので安心してください」
はーい、と声が上がる。まあ研修期間中も給料出してびっくりされてたから心配してなかったんだろう。なんで貰えるんですか!?って相当驚かれてたわ。ほら、職業技能を習得するのって巡り巡って自分の為になるから普通はお金なんか貰えないって思ってたみたい。というかそれが常識。
で、店の戦力になってからお金を貰うというのが本来らしい。ぼくはそんなやりがい搾取なブラック企業は嫌だからちゃんと払いますよ。
それでは、と開店。店の前にはさすがに誰も……あの、ラケシス様、何やってるんですか?
「開店おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「あんぱんをください」
「早いですね。いや、まあようこそいらっしゃいました」
ワクワクしてるラケシス様を案内して店内へ。王妃様も来ようとしてたらしいけど、王城で止められたそうな。そりゃいきなり王妃様が下町に来たらびっくりするわ。というかラケシス様でも驚くよ?
店内をウキウキしながらウォッチングしてるラケシス様。あなたここにあるものは一通り食べてますよね?
「ああ、どれもこれも美味しくて目移りしますね」
美味しそうでではなくて美味しくてというのがその証拠。味は知ってるからあとは消費する量なんだろうな。毎日来る訳にもいかないだろうし。毎日来ないよね?
「決めました! 今日はあんぱんと薄皮まんじゅうとおしるこにします!」
……今日は? い、いや、まだ毎日来るとは決まったわけじゃない。ともかくお買い上げありがとうございました!
ラケシス様が居なくなったあとは暇になった。まあそうだよね。たまたま入るくらいしかないもんね。でもまあ人来なくてもそんなに困りはしないからなあ。売れるに越したことはないけど。
「失礼します」
「あ、いらっしゃいませ」
入って来たのは若い女性三人。どこかで見た事あるような。
「あ、本当に護様だわ」
「いつもお世話になってます」
「お世話してますの間違いじゃない?」
んん? あ、お城でぼくらの世話してくれてるメイドさんたち! そういえばこの子たちにも宣伝はしてたな。
「あの、メイド価格とかあります?」
「ありません」
「ケチー」
なんだよ、メイド価格って。メイド服着てたら割引とかそういうの? いや、ぼく別にメイド萌えでもなんでもないし。アインがメイド服着てんのは本人の趣味だと思うのです。強制なんて一切してません。
店内を物色したあとそれぞれあんぱんをお買い上げ。安くて美味くて食べ応えもそこそこ。割とお得だと思うんだよね。
「こんにちは!」
次に来たのはリンさんとエルさん。お二人で仲のいいことで。リックさんとトムさんは来ないんだって。まあ甘味処だしね。二人も予めいくつか食べてたから味は知ってんだよね。
「おしるこ二人分お願いします」
食べる気満々だ。こりゃ飲食スペース拡げた方がいいかな? いやまあまだそこまで客が来ないだろうから大丈夫か。
「冒険者ギルドで宣伝しときましたからそのうち女性冒険者が来るかもしれませんよ」
おおっと? これは宣伝してくれた礼をしないとね。白玉増量サービスだ!
「もちもちしてて美味しい! やっぱり正解だね」
「ええ、朝食を控えめにして正解でした」
カロリー的にはどうか分からないけど些細な抵抗はしてたみたい。あ、一応大丈夫とは思うけど身体動かすことをお勧めしますよ。




