第百七話:王族女性三姉妹(違)
いや、なんかどこからか姉妹と書けと言われた気がして
城の正門。門番たちが立っている。ぼくらは馬車とかないから歩きで入城する。えっ? 前の時は車使ってたろうって? 全員乗れないんだよ。
「止まれ、何者だ?」
「あ、お仕事ご苦労様です。私たちは……」
「あ、そ、それは!」
懐から出した通行許可証を見て門番たちが騒ぎ出した。
「おい、王妃様と王様に報せてこい!」
「さあさあ、中へどうぞ」
ろくなチェックもなしに通されるらしい。面倒なくていいけどそれ以上に面倒な気がする。
「アーイーンーさーんー!」
城の方からダッシュで来る女性。それは紛れもなくラケシス嬢だった。
「おや、ラケシスさんではありませんか。お久しぶりです」
「はい、お久しぶりです! ですが、その前に王妃様の所へ。早く!」
「あの、護衛の方々は……」
「はあ? 護衛? ええと、それでしたら別に部屋を用意しますので早く早く!」
どうやら切羽詰まってるらしい。一体どうしたというのか。
「王妃様、彼女たちをお連れしました」
「! 入りなさい!」
そこには王妃様とお年を召した女性の方が居た。にこやかに座っているけど、なんか剣呑な雰囲気だ。
「おお、そなたらは! 義母上、この者たちが例の薬の出処です」
「そうですか。どうぞ、皆様、おかけください」
にっこりと微笑んでるのに目が笑ってない。なんだろう、この迫力は。
「あの、ラケシスさん、この方はどなたですか?」
「え、ええ、この方は現国王の母君、皇太后陛下です」
ええと、皇太后陛下……なるほど。どことなく国王陛下に似てる気もする。いや、ごめん、国王陛下の顔あまり覚えてない。というか人の顔自体覚えるのは苦手なのだ。一度会ったくらいだと覚えるのが困難だよね。
「あの、皇太后陛下にあらせられましては誠に……」
「堅苦しい挨拶は結構。説明していただけますか?」
「説明、ですか?」
「ええ、この子のシワが綺麗に消えているという不思議について」
なるほど。まあ化粧でシワまで消すのはかなり白粉を塗りたくらないとダメだろうけど、あのファンデーションはそんな事ないもんな。
「アミタ」
「うちの出番か?」
「説明してあげて、分かりやすく」
「せやなあ、肌には角質っちゅうもんがあってやな……」
そこからケラチンがどうとか、セラミドがどうとか、ヒアルロン酸がどうとか説明してたけど、ぼくにもさっぱり分からなかった。
「つまり、乾燥しているとシワになりやすいから保湿すると、そういう事ですか」
「せや」
すげえ、あの説明でわかったのか。やはり頭のいい人が多いんだろう。
「それは私のようなしわくちゃな肌でも出来ますか?」
しわくちゃ、と言うにはまだまだな気もするけど確かにシワは目立つ。王妃様は目尻くらいだったけど、顔全体にシワが出ている。
「さすがにシワをちいと隠すくらいならええけど、そんだけやと隠すのもしんどいわな」
「そうですか」
あからさまにガッカリする皇太后陛下。まあシワを取るのはなかなか出来ないよね。
「失礼、そのシワを延ばせばいい、という事でしようか?」
言葉を発したのは静かについてきていたアンヌだ。前にはいなかったメンバーなので皆さん初対面だ。
「アンヌ」
「はい、チーフ。その程度のシワでしたら手術で除去可能ですよ」
「ほ、本当なの!?」
あ、皇太后陛下が食いついた。
「はい、手術に同意いただけるのでしたら」
「やるわ!」
即答である。ちょっ、ちょっと待って!
「アンヌ、手術は何をするかきちんと説明しなさい」
「分かりました、チーフ。まず、全身麻酔で身体の自由を奪って、顔をメスで切ってシワを延ばします」
「ひっ!?」
うん、傍で聞いてるとヤバいよね。この世界には外科手術とかないから身体を切るなんて好きでやらないよね。
「あなた、恐れ多くも皇太后陛下の身体に傷をつけるというのですか?」
「傷跡は残らないように留意します」
「あなたね!」
「待ちなさい」
ラケシスさんがくってかかるのも無理ないのでほっといたら皇太后陛下がストップを掛けた。
「本当にシワがなくなるのね」
「はい、保証しましょう」
「一時的なもの?」
「そうですね。一応永久になどとは言えませんので」
「一ヶ月はもつの?」
「それくらいならどうとでも」
しばしの沈黙。そして皇太后陛下が口を開く。
「いいでしょう。あなたがたに頼みましょう」
「皇太后陛下!?」
「お義母様!?」
なんかやる事に決まったらしい。いや、わけがわからないよ。ぼくはオタオタしてるけど、アンヌは泰然としたものだ。皇太后陛下はにっこりと微笑んだ。
「では、なぜ私がこのような事を言い出したのか説明しましょう」
あ、どうやらきちんと説明してくれるらしい。ただ単に王妃様が羨ましかったとか言われるのかと思った。




