第百五話:王都へ再び
新しい子入りました。この子まで予定通りです。
「分かりました。私は何も知らず、ライルという冒険者が登録したというていで。受付が私に報告しなかったということにしましょう」
「そうか、助かる」
「ですから改めてこの登録用紙に御記入を」
「何故だ? 先程書いたであろう?」
「ですから! その書いたのが皇帝陛下のサインだから問題になってるんですよ!」
ハットさんがやけくそ気味に叫んだ。さもありなん。というかそもそも隠す気なかったろって思ってしまうのはぼくの思い過ごしだろうか。
「書いたぞ」
「ありがとうございます……大丈夫な様ですね。ではライルという名前で冒険者証を発行します」
全てか終わった。やれやれだ。
「そもそも単なる冒険者を騙るなら登録する必要なかったのでは?」
アインが身も蓋もない事を言う。
「いや、王都ではチェックが厳しくなっているからな。冒険者と言えど証明書がないと時間がかかるだろう」
あーなるほど。前も時間かかったもんなあ。ん? いや、そこまででもなかった気がするぞ?
「帝国で政変が起こったから亡命者が増えているそうだ」
「むう、それはすまぬな」
直接的には皇帝陛下のせいだし、間接的にはぼくらのせいとも言える。ぼくらの関与は飽くまで間接的なものだからすまぬと言うのも間接的に心の中で思っておくぐらいでいいだろう。
「それでは我らは王都に向かうか」
「さすがに今からでは王都の閉門には間に合いますまい」
「確かにな。それではこの街で一泊して明日朝旅立つとしよう。そうとなればまずは酒だな。酒場に行くぞ!」
うーわ、飲む気満々だよ。と言っても放ってもおけないので一緒について行く。アリスもアスカもぼくのそばを離れないからね。いや、正確にはアスカは離れるけどぼくのいないところで皇帝陛下と二人にはなりたくないらしい。酒臭いおっさんは苦手と。こりゃもう一体作るかな?
ぼくはパペットマスターを起動する。残高的にギリギリ一体は作れそうだ。よし、じゃあ偵察というか隠密というか忍者なのを作ろう。飽くまでニンジャ!ではない。ちゃんと忍ぶやつだ。
とりあえず軽業とかあと魔法も一応簡単なものを使えるようにしておこう。あ、フレームから肉付けする金が足りない。仕方ない。お金たまったらその時につけてやるか。そんなこんなでハリガネ人間なパペットが完成。偵察と一応の戦闘が出来る機体にした。
「お前の名前はアカネ。わかったな」
「ハイ、ワカリマシタ」
音声がちょっと不安定だ。うん、能力優先させたから人間らしさは後回しだ。とりあえずあの皇帝陛下の護衛につかせよう。もし、誰か襲って来たら戦わずにアスカに伝達すること。
パペット同士とぼくとの間では無線で通信が出来る。これは同規格のパペットだかららしい。ベースはぼくの愛機のパペットマスターだからな。
皇帝陛下が酒場に入ってアヤさんとヒルダさんは揃って同じホテルに部屋をとった。ヒルダさんのポケットマネーなのか、割とお高いお部屋だ。皇帝陛下もここだろうと思ったんだろうけど、まだ宿も取らず飲んでんだよなあ。もしかしてこのまま宿を取らずに夜明かす気かな?
ぼくら? ぼくらは普通に家に帰って寝られるし、そもそもパペットたちは睡眠を必要としないんだよね。それでもぼくが落ち着かないので家にいる時は寝てもらってるけど。翌朝、皇帝陛下が真っ裸で寝ていた。身ぐるみ剥がされたらしい。なんでだ?
「ホウコクシマス。サクバン、らいるハノミクイノシキンガナクテキテイルモノヲトリアゲラレマシタ」
……ええと、つまり、手持ちの金もないのに飲み食いして捕まったって事か? しかもすごく偉そうだったからツケも出来なかったって。うん、事件性は無いな。というか金くらい持っておけよ、皇帝だろ?
「んん? おお、おはよう。清々しい目覚めだ。すっかり冷えてしまったな」
「そりゃあその格好ならな」
「なんだと? うひゃあ、確かによく考えると寒いな!」
そりゃ半裸なんだからさもありなん。よく考えなくても寒いよ? 恐竜並みの鈍覚なのかな?
とにかく服を着てもらいましょう。予備の服を出しますよ。
そう言って一応の剣士としての最低限の鎧を出してやった。ぼくが着ようと思って断念したやつだ。あの頃のぼくは太っていたからなあ。今でもそこまで痩せてはないけど。
剣は……アミタの大量生産品があるよね。普通のやつ。下手に変な金属使ってると後で苦労するからね。ここは中古の打ち直しで我慢して貰おう、攻めてくるバカは王国にも帝国にもたくさんいたからね。
そして改めて変装した翌日、ぼくらは領都を後にした。さて、王都だ。と言ってもぼくらはほぼフリーパスなんだよね。問題はライルとアヤさん、ヒルダさん。ライルは冒険者証でクリア。
アヤさんとヒルダさんは商業ギルドの紹介状とかで突破。何とか通り抜けられたみたい。なお、売るものは無しでもいいのかと疑問だったが、買い入れのために来るものも居るので怪しまれてないそうだ。




