本番直前
今夜の演芸大会に出演することになった俺たち。演し物は『手品』に決定だ。
「スラ子、ここに、こう色を付けて……。それじゃあ見えてしまう。もっと隠して……」
「メグミ、このタイミングで出てきて……そうだ!……もっと大げさに!身振りを大きく!」
「ツムギはここで隠れて……舞台袖に入ったらこれを持って……」
「よし、通し練習だ。……いや、テンポが速すぎる!……そう!いいぞっ……もう少し待って……今だっ!」
俺たちは休憩も取らず準備と練習をつづけた。
何の用意もない所から、数時間で人に見せられる手品をするという無理ゲー。
ほとんどスラ子頼みとはいえ、俺たちも気は抜けない。
汗をかきながら何度も練習を重ねる。
いつの間にか日が傾いてきた。
窓からさす夕日で赤く染まる部屋の中、俺たちは準備と練習を終え、達成感に胸をいっぱいにして抱き合った。
いや、達成感を味わうのはまだ早い。
「お客様、そろそろ会場の方に参りましょう。」
宿のカウンター係がやってくる。
準備万端!……とは言えないが、やるだけの事はやった。あとは本番を残すのみ。
会場は宿から5分ほど歩いた場所にあった。
屋根のない、屋外の劇場だ。
舞台は半円形で、円弧の部分が客席を向いている。
舞台の背後は壁になっていて、左右には舞台袖がある。
これなら俺たちのやろうとしている手品に支障はない。
と、言ってもこれはスラ子に事前に確認してもらっていて、知っていたのだが。
既に日は沈み、空を見れば星が出ている。
劇場には松明などは見当たらなかったが、眩しいくらいに明るい。恐らくザンギエフが使っていたような灯りの魔法がかけられているのだろう。規模は全然違うが。
「出番は最後になります。それまでは客席でほかの組の演し物をご覧いただいて構いません。」
劇場のスタッフの案内に従い、俺たちは客席についた。
メグミとツムギのバニースーツは流石に目立つので、スラ子には、今は普通の服になってもらっている。
俺たちより前の組の演し物は様々だ。
歌や楽器の演奏、ダンス、短めの劇もある。
全体的に、あまり凝ったものは無いようだ。趣味の延長という感じ。
別に勝敗を決めるわけでもないので、和気あいあいとしている。
農閑期の楽しみの一つなのだそうだ。
ほのぼのとした雰囲気の中、俺たちは緊張でがちがちに固まっていた。
正直、他の演し物をほとんど覚えていない。
「そろそろスタンバイの方、お願いします。」
後ろから声を掛けられ、ビクッとなる俺たち。
「皆さん、緊張してますね。」
スラ子が言った。
「う、うん。こんなに緊張すると思わなかった……。」
「ちょっとお腹痛くなってきたかも……。」
メグミとツムギが弱気な事を言う。
かく言う俺も胃が痛い。
「あれだけ練習したんです。大丈夫ですよ。折角ですから楽しみましょう。」
スラ子の励ましで何とか舞台に上がる覚悟が出来た。
「そうだな。ありがとう、スラ子。」
「楽しもう!」
「はい!」
さあ、本番だ。




