2羽のウサギ
「キャーッ。カヒト!ちょっ、ちょっと待って……」
「あっ……ダメ……あっ、あっ……」
「カヒト……こんな明るいうちから……するの……?」
「え?暗くなったら、いつもこんな事を?」
「えっと……、そうじゃなくて……。キャーッ」
「よし!スラ子、やってしまえ!」
「は、はい……。マスター……。」
「あーっ!……許して……スラ子さん……。」
「そこは、ダメッ……!」
ドタバタと他人様には見せられない場面を経たが、事は済んだ。俺は二人をじっくりと眺める。うん、いい出来だ。
メグミとツムギは着ているものをすべて脱がせ、別の物を着せている。スラ子に変形してもらった衣装だ。
黒のレオタードに網タイツ。足にはハイヒール、手首にカフス。首元には蝶ネクタイを付け、忘れちゃいけないウサギ耳。もちろんお尻にはフワフワのしっぽ。
「カ、カヒト……。これは……。」
「ああ、バニーガールだ。」
「えーと……ウサギって事ですか?ウサギ要素、耳と尻尾しかありませんけど。」
「細かいことは気にするな。」
「こういう格好、胸がおっきいメグミさんには似合うけど……。私みたいなちんちくりんにはちょっと……。」
ツムギが自分の胸を押さえ、メグミを見て言う。
確かにグラマーなメグミにはよく似合っている。見事な出来栄えだ。
「そんなことはないぞ。ツムギも可愛らしくて、よく似合ってる。」
俺がそう言うと、ツムギは赤くなる。
ツムギは控えめな体形だが、少しは胸のふくらみがある。メグミとの対比が利いていて素晴らしい。
「それで、この格好は何の意味が……?」
メグミが言う。
「もちろん意味はある。それは……バニーガールはかわいい!」
「……え……うん。」
「……それだけですか?」
「バニーガールになった二人は可愛い!それ以上の事が、この世の中にあるか?」
「いえ、そうじゃなくて……って、メグミさん!ニヤニヤしてないで何とか言って!」
「えへへ……だって、カヒトが、私たちの事カワイイって……。えへへ……。」
「それは、……ふふ……そうだけど……うふふ……」
二人はくねくねして照れている。その様子も可愛いな。
「まあ、冗談は置いといて、演し物として『マジック』をやる!」
「なんだ……冗談か……。」
メグミは露骨にガッカリする。かわいいのは嘘じゃないのに。
「魔法?……ですか。まあ、スラ子さんの炎とか、派手ではあると思うけど……。」
「舞台で火を吹くのは危なくないかな。それに、町長の奥さんがすごい魔法使いなんだよね?……『今さら……』みたいな、微妙な感じになっちゃわない?」
「いや、魔法のマジックじゃなくて、手品の事だ。」
「テジナ?……ってなに?」
「あれ?知らないか……。うーん……魔法みたいに不思議な事が起きるけど、ちゃんとタネや仕掛けがあるものなんだ。見ると面白いし、驚くはずだ。」
「カヒトさんは、その、手品、をできるの?」
「いや、できない。手品を見たことはあるけど、仕掛けは知らない。」
「……もー。何の話ですか!」
「仕掛けなんて知らなくても問題ないさ。なぜなら、ウチにはスラ子が居るからな!」
「結局、私たちがこの格好をする意味がよくわかんないけど……。」
ツムギは釈然としないようだ。
手品と言えばバニーガール。何もおかしくはない。
そこで、部屋の扉がノックされた。
開けると、先ほどのカウンター係が食事を乗せたワゴンを押して入ってくる。
「失礼いたします。おおっ……これは……。」
カウンター係はバニーガール姿のメグミを見て、真っ赤になっている。男なら当然見とれるだろう。
「お、お食事をお持ちしました。あ、それと、わたくし、支配人の命によりお客様の御用聞きとなります。ご入用の物がありましたら、どうぞお申し付けください。」
「助かります。じゃあ、早速ですけど、絵具かペンキは手に入りませんか?なるべくたくさんの色で、量も多く用意してもらえると嬉しいんですけど。」
と、俺が言う。
「絵具とペンキですね。かしこまりました。」
カウンター係はそう言って退室する。
食事はやはり素晴らしかった。しかし、ゆっくり楽しんでもいられない。
演芸大会は今夜なのだ。時間はほとんどない。
手早く食べて、準備に取り掛かる。
「スラ子、こういう形になって……ここはこうで……」
手品のタネはほとんどスラ子頼みだ。スラ子の変形や色を変える能力を駆使して、テレビでよく見る手品を実現するつもりだ。
俺はタブレットに絵を描いて、スラ子に作ってほしい仕掛けを説明する。分かりにくいところは実際に作ってもらい修正を重ねる。
「二人はこのタイミングで……で、次にこうなって……。」
俺はやりたいことを説明しながら1匹と二人に指示を出す。
全体の流れ、手品の驚きのポイント、間に挟まるコミカルな展開。
まずは出演者であるみんなに理解させ、興味を持ってもらわなければ。
「面白い!これは受けるよ!」
「うん。私もそう思う。」
「さすがはマスターです。」
俺の説明で手品というものが分かったみんながそう言ってくれる。
「安心した。あとは練習あるのみだ。頑張ろう!」
「「「はい!」」」




