美味しいブロートコーブ
冒険者ギルドのギルドマスター・マリーと、町長の奥さんルイに街の事情を聴いた。
「そんなわけで、紹介できるクエストは今のところ無いんだ。もし何か入ったら、君たちへ優先して回そうか?」
マリーが言う。
「いえ。そこまでしていただく訳には……。しばらく滞在して、この街を見て回りたいと思います。」
「うん。そうしてよ。ルイじゃないけど、ブロートコーブを楽しんでね。」
「はい。ありがとうございます。」
俺たちは冒険者ギルドを出る。
俺たちがマリーとルイの話を聞いている間、ツムギは一人で街のグルメ情報をじっくり見ていた。
どうしても行きたい店があるらしく、俺の手を引いて先導する。
「二人とも、こっちこっち。あ、ここだ。」
ツムギに連れられてきた食堂は人気店のようだ。店の外に10人ほど列を作っている。
「ほら、早くっ。」
と、行列を無視して店に入ろうとするツムギ。
「ツムギっ。みんな並んでるからっ。」
俺はツムギの手を取り、行列に頭を下げて列の最後尾に着いた。
「ご、ごめんなさい……カヒトさん。」
「いいって。」
「なんか、列があるなとは思ったんだけど……。」
「トマスと旅をしていた時は、こういう店に入らなかったのか?」
「うん。もっと、屋台みたいなところだった。……あ、お店でご飯食べるにはお金が必要なんだよね。」
「食事代は俺が出すから心配するな。」
「ありがとうございます。……でも、自分の分は自分で払いたい……と言っても、私お金持ってないけど。」
「気にすることないよ、ツムギちゃん。私たちは家族みたいなものなんだから。」
メグミが言った。
「うれしいです。」
「まあ、ツムギが好きに使えるお金も持ってた方が良いだろうな。あとで渡すよ。」
「ええっ。で、でも私、そんなに役に立ってないし……。」
「家族みたいなもんだし、お小遣いかな。」
「私、そんなに子供でもないし……。」
話をしているうちに行列もはけてきた。店員さんの案内に従って店に入る。
「このお店はね、シチューが評判なんだって。私、初めてだから楽しみ!」
ツムギが言った。
「初めてなのか……何が?」
「シチュー!食べるの!」
「えっと……ツムギちゃん。昨日の晩ごh」
「楽しみっ!」
「ア、ハイ。」
クロレラシチューはシチューだと認めないらしい。あるいは記憶から消してしまったのか。
俺たちは店の一番人気だというホワイトシチューを頼んだ。
料理はすぐに運ばれてくる。
深めのお皿に入ったシチューと山盛りのパンが入ったかご。付け合わせにピクルスらしいものもある。
料理はどれも絶品だった。
シチューはどこまでも滑らかでコクがあり、具として入っている大ぶりの肉はトロトロだ。
パンはフワフワで、そのまま食べても旨いが、シチューに浸して食べるのもいい。ピクルスの酸味も箸休めにうれしい。
メグミはすぐに食べてしまい物足りなそうだ。パンはお代わりできるとのことで、パクパクと食べている。
ツムギは満足そうだ。お皿に残ったシチューの最後の一滴まで丁寧にパンで拭って口に入れた。
すっかり満腹になり、水を飲んで落ち着いている間にも、店は混雑が収まらない。
それどころか外の行列はさらに伸びているようだ。
食べ終わった客はすぐに席を立っている。
俺たちもそれに倣い、会計を済ませ、外へ出た。
……うーん、高い。……とは言わないが、バクバクでの食事に比べると3倍はする。それだけの味ではあったが……。
「カヒトさん。すみません、思ったより高かったですか……。」
ツムギが申し訳なさそうに言う。
「いや、こんなものだろう。別に買うべき物も特にないし、気にするな。」
「でも、すっごくおいしかった。こんなおいしいものは生まれて初めてだよ。」
メグミが言う。
「ああ、俺が元居た世界の高級店で出てきてもおかしくない料理だった。」
「もっと美味しいものも食べたことあるんですか?」
「うーん、どうかな。優劣はつけられないな。」
次にメグミが目を付けていたという店に向かう。
公園のような広場にイスとテーブルが置かれた一角があり、何軒かの屋台が出ているようだ。
看板の絵を見る限り甘いもののお店らしい。
そのうちの一軒でクレープらしきものを買う。
小麦粉の薄い生地でクリームと果物が包んである。
クリームは生クリームだ。先ほどの店のシチューでもバターやクリームが使われていたようだし、畜産もしているのだろう。
果物は柑橘類っぽい。
甘いクリームと酸味のある果物の組み合わせが絶妙だ。
「おいしーいっ!あまーい!」
「……ううっ……しあわせ……」
メグミとツムギは夢中になってクレープを食べている。
「あー。もうなくなっちゃった……。もう一個買おうっ!」
「まだ食べるのか。シチューだけでも結構ボリュームあったのに。」
「あんなにいっぱい種類があるんだもん!全種制覇するよー!ツムギちゃんも食べるでしょ?!」
「う、うん。食べたい……。」
「ツムギはもうやめとけ。お腹いっぱいだろ。」
俺が言う。
「お腹いっぱい……。でも、も、もう一個だけ……。」
「また明日食べればいいから。」
メグミは結局もう一つ買い、ツムギと半分ずつにして食べている。
ツムギはちょっと苦しそう。明らかに食べすぎだ。
「ツムギ、そこのベンチで少し休むか。」
「う、ううん。……あ、歩いていた方が、楽だから。」
「じゃあ、散歩がてら見て回ろう。」




