ブロートコーブに到着
「も、もう、だ、大丈夫だ……。」
しばらく後にザンギエフが布を俺に返しながら言った。
脂汗をかき、全然大丈夫じゃなさそうだ。
「無理するな。別に急ぐ必要ないし。」
「い、いや。休むなら街についてからでいい。」
そういって立ち上がろうとしたが、ザンギエフは顔をゆがめ、すぐにしゃがみ込んでしまった。
「雑魚魔法使いなんだから、無理しちゃダメですよ。あ、もしかして、またおんぶして欲しくてわざとじゃ……」
「や、やかましいぞ。ツムギ。そ、そうだ。あれがあったな。」
ザンギエフはそう言って『空間収納』から何かを取り出した。細長い箱だ。見覚えがある。
「魔法薬ですか?」
メグミが言う。
「ああ、麻酔だ。」
「脛をぶつけたくらいで薬を使うなよ。」
「ふんっ。いいのだ。全然使う機会がなかったからな。」
ザンギエフは瓶から手の平に液体を取り、それを脛に塗り始めた。
「よし!大丈夫だ。」
ザンギエフは怪我をした足をドンドンと踏み、調子を確認して言う。
「麻酔か。痛みがなくなっただけなのか。」
「ああ、それで十分だ。」
ザンギエフの脛は、やはり紫色になっていて少し腫れている。見るからに痛そうだが……。
「待たせたな。行くぞ。」
そう言って、スタスタと歩いて行ってしまった。
まあ、本人が良いと言うなら良いだろう。
俺たちもザンギエフの後に続いて出発し、少し歩いて峠を越えた。
越えた先は、湿原より標高がやや高い平地になっている。四方を山に囲まれた盆地らしい。
直線になった街道は真っ直ぐ盆地の中心辺りに向かっている。
道の左右は畑だ。といっても今は何も植えられていない。裸の畑が見渡す限りどこまでも続いている。
それから30分は歩いただろうか。民家らしい建物が増えてきたな、と思っていたら、俺たちはいつの間にか大賑わいの通りを歩いていた。
「わあ、すごい!人がたくさん。」
メグミが歓声を上げる。
「大きい街だねー。」
ツムギが言った。
「気が付いたら街中だったな。門を通ったっけ?」
俺が言う。
「門はなかったな。というか、街を囲う壁もない。」
ザンギエフが答えた。
「あ、そう言えば無いですね。壁。」
メグミが言う。
俺がこの世界にきて初めに見た街、ワルド(外から見ただけだが)も、鉱山の街バクバクも街を囲む壁があった。
モンスターの襲撃を避けるためだそうだ。
「畑を含めて、すべて囲うのは大変だからかな。」
俺が言う。
「その場合は建物のある範囲だけを囲うものだ。まあ、何か事情があるのだろう。」
「それで、ここがブロートコーブで間違いないのかな。」
バクバクの街では門番が教えてくれたが、この街ではそれがないので困惑する。
「カヒトさん。あそこに冒険者ギルドがあるよ。『ブロートコーブ支部』だって。」
ツムギが言った。
ギルドはそれほど賑わっていないが大きな建物だ。
「じゃあ、ザンギエフとはここでお別れか。」
「そうだな。と言ってもお前たちもすぐに他の街へ行くわけではあるまい。ここにいる間は顔を合わせることもあるだろう。」
「確かに。ザンギエフはあのダンジョンを攻略に行くのか?」
「ああ、とりあえず冒険者ギルドでメンバーを募ってみるさ。」
「気をつけてな。」
「そっちも、道中気をつけろ。魔法使いが抜けて大幅戦力ダウンなんだからな。」
「言うほど戦力でしたかね。」
ツムギが言った。
「ザンギエフさん、お世話になりました。お気をつけて。」
「ああ。メグミもな。そうだ、メグミは俺のパーティーに移らんか?」
「コラ!何が『メグミは』ですか!」
「なんだ。ツムギも誘ってほしかったのか?」
「ふふふ。遠慮しておきます。私はこのパーティーが気に入ってますから。」
メグミが言う。
「そうか、じゃあな。」
ザンギエフはそう言うと、くるっと背を向けて行ってしまった。あっさりしたもんだ。
「さてと、とりあえず冒険者ギルド……先に宿を決めるか?」
俺はメグミとツムギに聞く。
「宿はあとでいいよ。ギルドに行ってみよう。どんなクエストがあるかな。」
メグミがそう答えた。
冒険者ギルドに入ってみると、すぐ正面に掲示板があった。
ギルドの造りは大体どこも同じらしい。
相変わらず俺には何が書いてあるのかわからないが、スラ子に読み上げてもらう必要はなかった。
クエストはなにも無い。
クエストの掲示場所には、隅の方に2,3枚、紙が貼ってあるだけだ。それも、隣の掲示板からはみ出してるだけらしい。
「こんなに何にもない事もあるんだな。」
「うん。……ちょっとしょんぼりだね。」
「カヒトさん、メグミさん。こっちに、グルメ情報があるよ。」
ツムギが指さす方は街のおススメの店の情報らしい。
クエストと違い、そちらは所狭しとチラシが貼られている。
チラシは非常にカラフルだ。
「これ。『どこよりおいしい携帯食』だって。」
「『お湯を注ぐだけでヌードルの出来上がり』って本当かなぁ。」
「あ、『出来立てパンのお店』!行ってみたい!」
「すごいねー。食堂、選び放題だよ。お昼はどこで食べようか。」
メグミとツムギはグルメ情報に夢中だ。
俺はカウンターの方を見てみる。
受付はいくつかあるが人がいない。その奥では女性が二人、雑談に花を咲かせているようだ。




