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3日目の朝と再会

 ー3日目ー


 次の日の朝。この世界に転移してから丸二日経ち、今日は三日目だ。

 目を覚ました時、もう辺りは明るくなり始めていた。

 寝床は柔らかく、腹も満ちていたのでずいぶんと寝過ごしてしまったようだ。

 テントから這い出し、日の光を浴びながら大きく伸びをする。


 ふう、よく眠った。そう思った時、いきなり後ろから声をかけられた。

「✕……✕✕……✕✕✕✕……」


 と同時に俺の耳のなかで声がした。

「あ……あの……こんにちは……」

 スラ子の声?いや違う。聞こえてきた声に似た声だ。が、耳のなかでしゃべっているのはスラ子に間違いないだろう。

 俺は(おどろ)いて振り返った。10メートルほど離れた所に一人の女性が立っている。

「マスター。私が通訳いたします。」

 スラ子の声。しかしまだ理解が追い付かない。通訳?

「どうぞお話ください。あの人間の分かる言葉にして私が話しますので。」


 突然の出来事に頭がついていかない。しかし黙っているわけにもいかないだろう。俺は言った。

「こ、こんにちはっ……」

 と同時に俺の胸の辺りから耳慣れない声と言葉が聞こえる。

 何だか変な声。と思うが、どうやら俺の声だ。スラ子が俺の声を真似(まね)てしゃべっている。その言葉は女性の話しているのと同じ様な(ひび)き。


 つまり、そういうことだ。


 スラ子は女性の話を聞き、女性の声を真似て俺だけに聞こえるように話してくれる。同時通訳で日本語に変換して。

 俺の言葉も、同時通訳でこの世界の言葉に変換して発声してくれるということだ。

 これはすごい。

 両方の言語に精通(せいつう)していたとしても、普通出来ることではない。


 気を付けなければいけないのは、俺は小声で話さなくてはいけないという事だ。

 そうでないと同時に二つの言葉を発声する事になってしまう。

 なぜいきなり通訳なんか出来るのかとスラ子に聞きたいが、今は目の前の女性が優先だ。


 見ると、なかなか可愛らしい女の子だ。二十歳にはなっていないだろう。長寿(ちょうじゅ)の種族とかでなければ。

 革製の(よろい)らしきものを身に付けているが、それでも女性らしい体つきをしていることが分かる。特に胸の主張が(はげ)しい。

 腰には剣らしきものを下げている。こちらの出方によってはそれを抜くこともありそうだ。

 油断のない姿勢。すぐに俺を打ち倒すなり、逃げるなり出来るよう身構えている。


「あれは一昨日(おととい)出会った人間です。」

 スラ子がささやいた。

 つまり緑色のモンスター(ゴブリン)に襲われていた彼女だという。その時はよく見えなかったし、服装も違うので分からなかった。

 そう言えば声は聞き覚えがあるような。


「こ、この間は大変でしたね。怪我はありませんでしたか?……あ、俺はあの時に出てきた者です。つまり……」

 そこまで言って、ヤバいっ と思った。

 その時の俺は全裸だったのを思い出したのだ。

 つまり、彼女にとって俺は変態だ。良くて不審者(ふしんしゃ)。今回は服を着てるから安心。とはならないだろう。

「あの時はっ……その……すいません。女性の前に、とんでもない格好で現れてしまった……。」

「あっ……はい。でも……私を助けに来てくれたんですよね。えへへ……大丈夫です。ありがとうございます。」


 彼女には既に、俺があの時の全裸男だと気がついていたらしい。

 恐縮(きょうしゅく)する俺。

 何とか切り殺されるのは回避できたようだ。


「あのー……ここで何をしているんですか?」

 女性が言った。

 もっともな質問だ。さて、俺は一体何をしているんだろう。改めて考えてみると答えに詰まってしまう。

「えっと……金も無いので、キャンプしながら素材収集してたんだ。」

 我ながら適当な事を言う。素材収集ってなんだよ。とセルフつっこみ。

「そうなんですか。私も薬の材料のキノコを取りに来たんですよ」

「へえ、キノコか……キノコなら沢山採ったよ。必要なものがあったら持っていってくれていいけど。」

 そう言ってテントに置いていたバックパックを持ち出した。

 キノコは布袋になってもらっているスラ子の中に入っている。それを広げた。


 女の子が近づいてくる。もうあまり警戒していないようだ。

 それでいいのか?とちょっと心配になる。

「わっ、これって、全部ヒールマッシュルームじゃないですか!こんなにいっぱい。」

「これが、薬の材料になるの?」

「はい!そう聞いてます。すごいですね。わたし、この間は少ししか見つけられなくて。」

「じゃあ、全部あげるよ。その……お近づきの印に……」

「それは悪いですよ。あ、じゃあ、うちのお店に売ってもらえませんか?魔女のおばあちゃんのお店なんですけど、わたしそこに下宿してるんです。それで頼まれちゃって。」

「ああ。構わないよ。でも、ホントにあげるけど。」

「いいえ!こう見えて冒険者ですからね。自分の依頼(いらい)の分は自分で集めますっ。おばあちゃんも、多い分にはいいって言ってたし。」

「そうか。……それなら、君の仕事を手伝うよ。キノコ探しは上手いんだ。」


 キノコ探しが上手いのはスラ子だが。今はそういう事にしてもらおう。

「俺は他にやる事がある訳でもないから。」

「そうですか……じゃあ、お手伝いしていただけますか?」

「ああ。任せてくれ。」

「ありがとうございます!わたしが探してるのはヒールマッシュルームと、このキノコです。しびれ(たけ)っていうの。」

「ふーん。ちょっと見せて……」


 俺は小声でスラ子に聞いた。

「スラ子。このキノコがある場所、分かるか。」

「はい。ご案内します。マスター」

 スラ子が俺だけに聞こえる声で言い、誘導する。

 俺の足を動かし、その場所へ向かわせる。

 まるで操り人形になったようだ。力を抜いていても勝手に足が動く、不思議な感覚。


 少し離れた所にあった30センチほどの岩のそばの落ち葉をどけると、見せてもらった物と同じキノコがいくつか生えていた。

「ほら。あったよ。」

「え?ええーーっ?」


 女の子が駆け寄ってくる。

「確かにしびれ茸です……なんで……こんなにすぐに……」

 ……失敗だったか?もうちょっと探し回る演技(えんぎ)をするべきだったかも……


 いや、やってしまったものは仕方ない。俺は更にいくつかのしびれ茸の場所を女の子に教えた。

 女の子は驚きつつも、キノコを()りバスケットに入れていく。


 俺が(正確にはスラ子が)どんどん見つけるので女の子も急いでついてくる。

「あとは、この辺りのヒールマッシュルームは俺が採っちゃったな。申し訳ない。もう少し向こうならまだあるから。」

「ま、待って待って。もうバスケットがいっぱいだよ!」

「そうか。袋を貸すよ。」

「ううん、今回はこれで十分。それより、少し休憩しましょ。わたし、あなたのテントに興味あるなぁ。」

 女の子の言葉が卑猥(ひわい)な意味に聞こえるのは、きっと気のせいだろう。

2021/12/25 改行と一部表現を修正

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