クロレラシチュー
ブロートコーブはすぐそこだが、大事を取ってキャンプすることにした俺たち。
晩御飯の準備ができたところだ。
鍋には深緑のどろりとした液体が満たされている。
ボコッと気泡が弾け、青臭いにおいがあたりに広がった。
「ななな……なんだそれは!沼か!俺に嫌がらせをするためにっ、沼を汲んできたのか!」
ザンギエフが震える指をさしていう。
「失礼な奴だ。これはクロレラというものだ。……まあ、もともとを言えば、沼から汲んできたのはその通りだけど……。」
このクロレラは一昨日、道端の緑色のよどみをスラ子に保存してもらい、培養していたのだ。
日の光を浴びてある程度は増えてくれた。
今日はそのクロレラを使ったクロレラシチューだ。
スライム団子と熊の胃袋を一口大にして加え、塩で味を調えたら完成だ。
まあ、ちょっとにおいが……。しかし食べられないことはないだろう
「さあっ、うまいぞぉ!」
俺は自分に言い聞かせ、スラ子に出してもらったお皿にシチューを注ぎ、テーブルに配膳する。
ザンギエフは奥の壁に張り付き動かない。メグミとツムギは扉の所でこちらをのぞき込み、小屋に入ってこようとしなかった。
ツムギは泣きそうな顔……というか泣いている。
「ほらほらっ。冷める前に食べよう!いただきます!」
俺はシチューをスプーンですくい、口に近づける。
うっ……青臭い……。
ええいっ。男は度胸!
口に入れる。モグモグ……。
「キャー!」
女性陣の黄色い歓声が飛ぶ。
ザンギエフは壁に張り付きすぎて、突き抜けそうだ。
「カヒト!……大丈夫?」
…………
うん、不味くはない。……さりとて旨くもないが。
口に入れてしまえば、青臭いにおいは気にならない。
舌触りがざらつく事と、やや苦みがあるくらいで問題ない。
熊の胃袋はやっぱり歯ごたえがすごいな。なかなか噛み切れない。
俺の様子を見て食べても問題ないと思ったのか、3人は神妙な顔つきでテーブルに着く。
目の前のお皿をのぞき込むメグミのお腹が、グーっと鳴った。
「……お腹すいたし……食べるしかないよね。……いただきます。」
メグミは少し赤くなりながらスプーンを手に取る。
ズズッ……。
メグミはシチューを一口すすり、少し顔をしかめたがそのあとは無言でスプーンを動かしている。
ザンギエフも観念したのか、食べ始めた。口に入れ、よく味わっているようだ。
「……む……これは……うまいな。」
「えっ?そう?」
俺は思わず言った。
「お前が言うのか。まあ、かなり野趣あふれるというか……苦みがあるが、それが良い。」
ザンギエフは思いのほかクロレラシチューを気に入ったらしい。どんどん食べている。
一方、ツムギはスプーンを口元に持って行ったまま止まっている。
「……うえーん……くさいよ~……。」
「それはまあ、……そうだけど、食べてみると案外おいしいよ。ツムギちゃん。」
メグミが言った。
ツムギはメグミの顔を、何かを訴えるように見上げる。そのあと諦めたように目をぎゅっと閉じてシチューを口に放り込んだ。
「……うえーん……にがいよ~……。」
「この苦みが良いじゃないか。やれやれ、ツムギはまだまだ子供だな。」
ザンギエフが言う。
「調理次第で苦みは何とかなると思うが……。ツムギ、今日の所は我慢してくれ。」
「……うえーん……」
ツムギもゆっくりだが食べ始める。なるべく味わないようにしているのだろう。スプーンを口に入れ、すぐに飲み込むようにしている。
無心でスプーンを口に運び、お皿のシチューが無くなるとすぐに立ち上がった。
「ごちそうさま!スラ子さーん!お水くださーいっ!」
そういって扉を開けて出て行ってしまった。
俺はザンギエフの方をうかがう。
ザンギエフは俺の方をちらっと見て、特に何も言わず食事をつづけた。
もう、2回目のお代わりをよそっている。本当に気に入っているようだ。
俺はクロレラシチューを2杯食べ、それで終わりにした。
もう少し食べられそうではあるが、苦みがキツイ。
「ご馳走様。ちょっとツムギの様子を見てくる。二人はゆっくり食べててくれ。」
そういって俺も外へ出る。
ツムギは少し離れた岩陰にいると、スラ子が教えてくれる。
俺がそこへ行ってみると、ツムギはスライム団子を食べていた。
「あ……。カヒトさん。」
「ツムギ、悪かった。あんなに嫌がるとは思わなくて。」
「……全く。小さい子にあんな苦いものを食べさせるなんてっ。」
「悪かったって。……スラ子、スライム団子を焼いていてくれたのか。」
「はい、マスター。ツムギさんが欲しがるので、いくつか電熱器で焼いておきました。」
「泣く子には勝てんな……。俺にもくれるか。」
「もちろんです、マスター。」
ツムギは焼いたスライム団子を頬張りながら言う。
「カヒトさんっ。これからもあんなのを食べさせるのなら、私は逃げちゃいますからねっ。」
「それは困る。メグミも悲しむぞ。」
「……まあ、逃げるのは冗談ですけど。」
「最近、ぜんぜん野菜を摂ってなかったからな。」
「あれは野菜じゃありませんっ。沼です、ぬまっ!沼味がすごすぎます!」
「ザンギエフはうまいと言ってたぞ。」
「あの人はちょっとおかしいですから。たぶん、魔法使いっていうのはみんな変人なんですよっ!」
「……俺も含めてって事か。」
「自覚があるなら何よりです。」
「……明日はブロートコーブへ着くはずだ。着いたら何か、甘いものでも食べよう。」
「え?ホントですかっ。私、甘いものって食べたことなくてっ。」
「そうか……。たぶん何かしら売ってるだろう。俺もこの世界にきてから食べてないし、楽しみだ。」
「うん!楽しみっ!」
何とかツムギの機嫌も直ったようだ。
俺とツムギが小屋に戻ると、メグミとザンギエフがちょうど食べ終わった所だった。
鍋はすっかり空だ。
「うーん……もう食えん。」
ザンギエフが言う。
「私も、お腹いっぱい。」
メグミも満足そうにしている。
「メグミもクロレラシチュー、気に入ったのか。」
「うん。結構おいしかった。ご馳走様。」
「メグミも魔法使いの素質があるのかもな。なっ、ツムギ。」
「……知りませんっ。」
「?」
メグミが首をかしげる。
「さて、すまんが俺はもう休ませてもらおう。」
ザンギエフが用足しから戻ってきて言った。
「ああ、ゆっくり休んでくれ。お休み。」
と、俺。
「私はもう少し起きてようかな。さすがにまだ眠くないから。」
「私も。」
メグミとツムギはそう言って何か話をしている。
「じゃあ、俺は先に休ませてもらうよ。」
「うん。お休み。」
「おやすみなさい。カヒトさん。」




