メスガキツムギ
ゴーレムから逃げようと走る俺たち。
ザンギエフが遅れ始めた。
「はー……。仕方ないですね。」
ツムギは俺に荷物を渡し、ザンギエフをおんぶする。
「ツ、ツムギっ。無理するな。」
ザンギエフがツムギにおぶさったまま言う。
「軽いものです、これくらい。もっとご飯食べたほうがいいですよ。」
ツムギは息も乱さず言った。大したものだ。
「どうだ?追ってきてるか?」
俺が聞く。
「いや、来ていない。大丈夫だ。」
ザンギエフが後ろを向いて答える。
「みんな!あそこに乾いた所があるよ。そこまで走ろう。」
先頭を走るメグミが言う。
「分かった。」
バタバタと走り、メグミの言う乾いた所へたどり着いた。
靴の踏み跡や馬車の轍がいくつもある。どうやらこれが街道らしい。
堅い地面の上で、俺たちはやっと息をつく。ああ疲れた。
「はあ……。ツムギ、助かった。」
ザンギエフが素直に礼を言っている。
「問題ありませんよ。それに、ザンギエフさんの魔法がなかったらみんな揃って逃げられませんでした。」
「そうだな。ザンギエフ、ありがとう。」
「ザンギエフさん、ありがとうございます。」
俺とメグミもザンギエフに礼を言う。
「俺は出来ることをしたまでだ。」
「ああ。各々が最善を尽くした結果だな。みんな、お疲れ様。」
俺が言う。
「ハーピーもね。」
メグミが上を指さして言った。その通り。ハーピーには助けられた。
俺はハーピーに、道案内と戦闘を手助けしてくれた礼として、熊の内臓をほとんどあげることにした。
幸い街は近いらしいので、俺たちの食料は問題ないだろう。銀の背熊の胃袋だけとっておき、のこりを進呈する。
ハーピーは熊の腸を太い足でつかみ、元の方向へ飛び去って行った。
「カヒト、街が近いのか?」
ザンギエフが言った。
「ああ、ハーピーが言っていた。道に沿って、すぐそこらしい。」
「ハーピーの言う『すぐそこ』がどのくらいの距離かは分からんがな。しかし、悪いが俺はもう歩けそうにない。これだけの魔法を使ったのは久しぶりだ。」
ザンギエフはそう言ってしゃがみ込んでしまった。
「えー?もうバテちゃったんですかー。情けなーい。ざぁこざぁこ。雑魚魔法使いー。こんな小さい女の子におんぶされてー、恥ずかしくないんですかー?」
ツムギがここぞとばかりに言う。
「……フンッ」
ザンギエフは言い返す元気もないようだ。
「まあ、俺も休憩なしで走って、くたびれた。……みんな、あの道の曲がった先に小屋があるようだ。今日はそこで宿泊することにしよう。」
街道はおおむね南へ向かっている。
道の左右には山が連なり、その谷あいに沿って少し上り坂になっている。
少し先には、岩を避けてカーブしたところがあった。
動けないというザンギエフを何とか引きずり、そのカーブを越える。
そこには昨晩泊まった休憩小屋と全く同じものがあった。スラ子の部屋だ。
ザンギエフは本当に疲れ切っているようだ。何も言わずに小屋に入り、1人部屋のベッドに倒れこんでしまった。
今日は昼食をとっていないし、ずっと歩き詰めだ。早めの夕食にして、俺たちもさっさと寝てしまおう。
しばらくして……。
小屋の外にツムギの悲鳴が響く。
「イヤーーーッ!やだやだやだやだ!」
「ツムギ!好き嫌いすると大きくなれないぞ!」
「大きくならなくていい!食べたくなーいっ!」
「コラ!ツムギ!うるさいぞっ。眠れやしない!」
ザンギエフが小屋の扉を開けて怒鳴る。
「おお、ザンギエフ。ちょうどいいところに起きてきたな。晩御飯にしよう。」
俺は鍋を両手に持ち、小屋へ入ろうとした。
「そうか、すまんな……。なんだこの匂いは……。」
ザンギエフは鍋をのぞき込むと、ズザザッと後ずさる。
「カ、カヒト。それは、いったい何だ。」
「何だとは失礼な。今言っただろう。晩御飯だ。」
俺は鍋をテーブルに置いて、言った。




